state of LOVE
「解決したデスカ?」
「取り敢えず、な」
「それは良かったデス」

にっこりと笑うレベッカと、難しい表情で俺を見上げる秋山さん。対照的な二人を前に、俺は大きく息を吐いて座り込んだ。

「佐野君っ?」
「あー…ごめん」
「大丈夫?」
「アイリ、そっとしておくデスヨ」

細く高いヒールと太く低いヒール。二人分の足音が、扉の向こうに消えた。色んな思いが詰まる胸に、ギュッと握り締めた携帯を押し付ける。


美緒には本当の母親がいる。この先会えるという保証はないけれど、やはりあの人は美緒の母親で。


「これで良かったんだよ、これで」


あんた何を考えてこんなことしてんだよ!とか、すぐ戻って来いよ!とか…言いたいことは色々あるし、言わなければならなかったことは沢山あるのだろうけれど、俺はそれをしなかった。

いや、それが出来なかったのだ。


「母親…ね」


いつだってワガママ全開で、自由気ままに家族を振り回す母。家族に守られ、幸せそうに生きる母。そのどちらとも違う、美緒の母親。どんな人生を送ってきたのか、どんな運命を背負っているのかもわからない。会ったこともない「倉田ミソノ」という一人の母親。


「何だよ…面倒くせーな」


電話一本で「はい、そうですか」とは解決しないトラブルに、鈍い頭痛が襲ってくる。親の思いはわからない。けれど、子供の思いならばわかる。わかるからこそ、こうして胸が痛いのだ。


家に戻れば、きっと美緒が一番に駆け寄って来る。小さな手をうんと伸ばして、「とーちゃ!」と無邪気に笑ってくれるのだろう。


ずんと重くなった体を起こして窓の外に目を遣ると、闇が下りた街が見えた。
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