state of LOVE
辿り着いた我が家は、主を失った寂しい色をしている。静かに扉を開くと、ひやりと冷たい空気が俺を迎えてくれた。
「ただいまーっと」
誰もいないからこそ、独り言も弾む。これで返事があったなら困りものだ。もはやここは人間界ではない。
「タオル、タオル…あった」
二階のベランダに転がっていた、丸い物体。それを拾い上げて部屋の中へ戻ると、我が家では到底目にすることの無いような派手なピンク色が目を突き刺した。
「おぉ…うちと一緒だ」
グルグルと巻かれていた紐を解くと、我が家の鍵と同じ形のストレート形状の鍵が姿を現した。窪みの数や場所が違うだけで、形は同じ。パッと見ではどちらのものか判断がつかいないだろうけれど、幸いこの鍵にはちーちゃんがお気に入りのパンのヒーローのシールが貼られていた。
「取り敢えず保険証とおむつと…」
服は、ひと月以上毎日違うものを着れそうなくらいある。ハルさん曰く、聖奈が美緒くらいの頃はその三倍以上はあったというのだから、三木家が未だに一部屋を衣裳部屋に潰してしまっている理由も頷ける。
自宅の鍵を閉め、すぐ隣にある美緒の家の扉へと手をかける。鍵を回してそっと引くと、冷え切った空気が頬を撫でた。
「お邪魔しますよーっと」
無断の侵入者ではないことを取り敢えず主張し、電気のスイッチへと手探りで手を伸ばした。そして思う。もし今誰かがこの部屋を監視していたとしたら、電気を点けたらマズイのではないか、と。
いや、俺が鍵を開けて入っていること自体おかしいことなのだけれど、これ以上危険を冒すような真似は控えるに限る。そう判断し、暗闇の中で探し物をする覚悟を決めた。
「うわ…何だよこれ」
作りは我が家と同じ。左右対称になっているくらいで、部屋の数も広さも同じ。けれどここには、家庭の温かさは無かった。
部屋の隅に乱雑に積まれていた美緒のおむつと肌着。キッチンカウンターの上には、請求書の山があった。
目的の物はどこか。携帯のライトを片手に部屋を見渡しながら長丁場になることを覚悟した俺は、小さな丸いテーブルの上にそれが置かれていたことにホッと安堵の息を吐いた。
「計画的犯行、ってやつだな」
床の上にはぐちゃぐちゃと色んな物が転がっているというのに、そのテーブルの上だけはやけに綺麗で。保険証と、「お願いします」と書かれた小さな紙、そして一枚の写真が置かれていた。
「ソックリじゃん。俺とメーシーみたいだな」
飴玉みたくコロンと丸い目、決して高いとは言えない鼻、ぷっくりとした頬。何を取っても、美緒は間違いなく美園さんの娘だった。
「会えるよ、いつか」
そう言い聞かせ、目的の物を両手に持って家を出る。時刻は、いつの間にか20時を過ぎていた。
「ただいまーっと」
誰もいないからこそ、独り言も弾む。これで返事があったなら困りものだ。もはやここは人間界ではない。
「タオル、タオル…あった」
二階のベランダに転がっていた、丸い物体。それを拾い上げて部屋の中へ戻ると、我が家では到底目にすることの無いような派手なピンク色が目を突き刺した。
「おぉ…うちと一緒だ」
グルグルと巻かれていた紐を解くと、我が家の鍵と同じ形のストレート形状の鍵が姿を現した。窪みの数や場所が違うだけで、形は同じ。パッと見ではどちらのものか判断がつかいないだろうけれど、幸いこの鍵にはちーちゃんがお気に入りのパンのヒーローのシールが貼られていた。
「取り敢えず保険証とおむつと…」
服は、ひと月以上毎日違うものを着れそうなくらいある。ハルさん曰く、聖奈が美緒くらいの頃はその三倍以上はあったというのだから、三木家が未だに一部屋を衣裳部屋に潰してしまっている理由も頷ける。
自宅の鍵を閉め、すぐ隣にある美緒の家の扉へと手をかける。鍵を回してそっと引くと、冷え切った空気が頬を撫でた。
「お邪魔しますよーっと」
無断の侵入者ではないことを取り敢えず主張し、電気のスイッチへと手探りで手を伸ばした。そして思う。もし今誰かがこの部屋を監視していたとしたら、電気を点けたらマズイのではないか、と。
いや、俺が鍵を開けて入っていること自体おかしいことなのだけれど、これ以上危険を冒すような真似は控えるに限る。そう判断し、暗闇の中で探し物をする覚悟を決めた。
「うわ…何だよこれ」
作りは我が家と同じ。左右対称になっているくらいで、部屋の数も広さも同じ。けれどここには、家庭の温かさは無かった。
部屋の隅に乱雑に積まれていた美緒のおむつと肌着。キッチンカウンターの上には、請求書の山があった。
目的の物はどこか。携帯のライトを片手に部屋を見渡しながら長丁場になることを覚悟した俺は、小さな丸いテーブルの上にそれが置かれていたことにホッと安堵の息を吐いた。
「計画的犯行、ってやつだな」
床の上にはぐちゃぐちゃと色んな物が転がっているというのに、そのテーブルの上だけはやけに綺麗で。保険証と、「お願いします」と書かれた小さな紙、そして一枚の写真が置かれていた。
「ソックリじゃん。俺とメーシーみたいだな」
飴玉みたくコロンと丸い目、決して高いとは言えない鼻、ぷっくりとした頬。何を取っても、美緒は間違いなく美園さんの娘だった。
「会えるよ、いつか」
そう言い聞かせ、目的の物を両手に持って家を出る。時刻は、いつの間にか20時を過ぎていた。