state of LOVE
何の連絡もしないで二人を先に戻らせたものだから、電話こそかけてこないものの聖奈が怒って待っていることに間違いはない。

そんなことを思いながら地下の駐車場に車を停め、部屋番号を打ち込んで鍵を回してエレベーターを動かす。


ここのマンションには、駐車場を始点とした入居者専用のエレベーターと、一般訪問者用のエレベーターの二台がある。

入居者専用のエレベーターを動かすには、部屋番号と鍵が要る。一般訪問者用のエレベーターには、いくらオートロックを開けてもらったとて常駐している管理人に身分証を呈示しなければ乗ることは出来ない。

宅配便も管理人室で預かるくらいなのだ。さすがに高級マンションだけあって、その辺りの警備はきちんとし過ぎているくらいだ。

しかもこのマンションは、1フロアーに二世帯分しか戸数がない。5階建てなので、全部で10世帯。そのためだけにこの警備。だからハルさんはここを選んだ。その気持ちもわからなくはない。

「おかえりなさい」
「わっ…ただいま」

エレベーターが到着し、扉が開くと同時に冷たい目をした聖奈に出迎えられた。

聖奈とて、何もずっとここで番犬の如く見張りをしていたわけではない。部屋番号を打ち込んでエレベーターを動かした時点で、家の中のモニターにエレベーターの中の様子が映し出されるようになっているのだ。だからこうして毎日聖奈が出迎えてくれる。

そんな主婦に有り難いだろう設備も、今日ばかりは少し不便だと思った。

「お買い物に行ってたんですか?」
「いや、隣の家」
「どうしてお隣の家へ入れたんです?」
「んー…後で話すよ」
「ふぅん」
「不満げだな」
「いえ、別に。突然知らない女の人とレベッカだけを寄越して、本人はどこに浮気しに行ってたんだよ。電話くらいしてこいよ。とかは思ってないから大丈夫です」
「思ってんだな、それを」

正直でよろしい。と、ポンポンと頭を撫でてやる。拗ねずに言ってくれるだけ有り難い。気苦労も減るというものだ。

「お前が心配するようなことはしてねーよ」
「だといいですけど。あの愛里さんって方は、クラスメイトだとお聞きしましたけど」
「だな」
「あの人もマナのことが好きなんですね」
「本人がそう言った?」
「女の勘です」
「そうゆう勘だけ働くんですね、聖奈さん」
「おかげさまで」

これは、車の中でNY時代の彼女を思い出していたことは口が裂けても言えない。
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