state of LOVE
帰り道、ずっとピーチクパーチク話していたのはレベッカだけで。愛里は何だか気まずそうに俯いているし、俺は俺でハルさんの言葉が気になって何だか釈然としないし。

吸わずにずっと指先で挟んでいたタバコの残り香に、ずんと胸の奥が重くなった。

「ねぇ、佐野君」

信号待ちの最中、愛里の控え目な声に「ん?」と返事をしながら視線を遣る。すると、遠慮がちな視線が寄越された。

「あのー…さ」
「ん?」
「佐野君、「俺のこと好きでしょ?」って言ったよね?」
「あー、うん。俺はそう確信してんだけどね。違った?」
「ううん。違わない。私、高校生相手だったら、もしかしたらチャンスあるかもって思ってた」

でもね?と続け、愛里は笑った。

「あんな佐野君見たら、そんな気なくなっちゃった」
「ん?」
「だって佐野君、凄く楽しそうなんだもん。彼女さんのこと大好きだよね」
「あー…」
「バレバレよ、マナ」
「うるせーよ、ベッキー」

後部座席からひょいっと顔を覗かせたレベッカの額をペシンと叩き、ハンドルを握り直してゆっくりとアクセルを踏む。

「俺さ、NYに住んでた頃、年上の女とばっか付き合ってたんだ」
「えっ…と」
「昔っから年上が好きで、それをずっと面倒くさくないからだって思ってた」

戸惑う愛里を「いいから聞いて」と制し、ハンドルを握ったまま言葉を続けた。

「うちの家族、昔日本に住んでたんだよ。そんな頃の記憶なんか無いし、親達から聞いて「あぁ、そうなんだー」って感じだったんだけど」
「あっ、日本に住んでたんだね。それで?」
「夢で時々見るんだけどさ、その頃俺には大好きな人がいたんだよ」
「そんな小さい頃から?」
「うん。顔とかハッキリ覚えてねーんだけど、いっつもワンピース着てる人で、それをドロドロにしながら俺と遊んでくれてたんだよね。二人でめいっぱい遊んで、夕暮れ時に手繋いで帰るんだ」
「その人って…」
「そっ。彼女のお母さん」

顔は見えない。声も聞こえない。

けれど、あの夢の中の女の人はちーちゃんだと言い切れる。絶対の自信を持って。

「うちの母親はさ、まぁ…あの通りだから、子育てなんてしたことないような人でさ」
「そんなことないと思うけど…」
「母親って言ったら、いつもあの人のことを思い出すんだ。昔の記憶ってのがやっぱあんだろね」
「それで…好きなの?」
「んー。かもね」

年上ばかりを選んできたのは、どこかにちーちゃんの面影を探していたからだろう。こうして一緒にいればいるほど、その想いは強くなる。
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