state of LOVE
「落ち着いたんやったらこっち何とかしてくれや」


完全に思考から抜け落ちていた三木夫妻。慌てて振り返ると、ちーちゃんはまだハルさんの腕の中で震えたままだった。

「ちーちゃん、大丈夫なんですか?」
「見てわかれや。察してくれ、頼むから」
「ですよね」

普段見ることの出来ない不安げなハルさんの表情に、さすがの俺も申し訳なくて眉尻を下げる。

さて、どうしようか。美緒を抱き直して立ち上がろうとした俺を制し、聖奈がよいしょと腰を上げた。

「ちーちゃん」

そっとちーちゃんの肩に手を置き、聖奈はゆっくりと語りかける。自分の言動が元でこうなった。それは十分承知の上で。

「ちーちゃん。酷いことを言ってごめんなさい。セナはちーちゃんが大好きです。ママが大好きです」

無理やりに視線を合わせた聖奈を映し、紡がれた言葉にちーちゃんの瞳からドッと涙が溢れた。

「セナ…ごめんね」
「いいえ。セナが悪かったんです。ごめんなさい、ママ」
「セナ…せなぁ…」

何か怒りの言葉をぶつけるのかと思えば、ちーちゃんは「せなぁ」と娘の名を呼びながら泣くばかりで。これで本当に解決するのだろうか…と不安に思う俺に、腕の中の美緒がニッと笑った。

「かーちゃ。ちー」
「んー?」
「とーちゃ。じー」
「えー?」
「いおー」
「こらこら。お前の名前は美緒だよ、美緒」
「いおー」

皆仲良し。とでも言いたいのだろうか。床に下すと、空気も読まず抱き合う母娘の間に割り込んで、何だか満足げだ。

「かーちゃ。だーだ」
「こらこら。空気読めー?娘」

甘えて聖奈に擦り寄ろうとする美緒を引き剥がし無理やりに腕の中に収めると、しゃくり上げながら泣いているちーちゃんの額に聖奈がコツンと自分のそれを寄せた。

「ママ、セナを生んでくれてありがとう」
「せな・・・」
「わかってあげられなくてごめんなさい。ずっと苦しい思いをさせてごめんなさい」
「せな、ごめんね。ごめんね」

元々ボキャブラリーが少ないだろうちーちゃんは、泣いてしまうと普段以上に言葉が出ない。それを知っている俺達は、娘に縋り付きながら謝り続けるちーちゃんを温かい気持ちで見守っていた。

これでは母娘が逆ではないか、と。
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