state of LOVE
「俺さ、いっつも思うんやけど、あの夫婦上手くいってんの?」
「いってますよ。見ての通り」
「メーシーだいぶ頑張ってんな」
「んー…」

確かに、上っ面だけを見ていればそう思うことだろう。ワガママ放題の奥様に従う優しい旦那様。どこに行ったって、誰が見たってそう言う。

けれど、俺はあの夫婦の息子なのだ。もっと深い部分まで見える。

「うちの家、結構メーシーが主導権握ってますよ」
「嘘やん。女王と姫の天下ちゃうん?」
「そう見えるようにしてんですよ、メーシーが」
「はぁー。さすが腹黒」

何度も言うけれど、我が家の主は「大魔王」なのだ。あのワガママ放題の女王様でも、メーシーの決めたことには何の文句も言わず従う。俺だって、妹だってそうだ。そこで反抗したが最後、とことんまで追い詰められて精神的なダメージを与えられる。

この家で生まれ育って19年弱。自己保身という言葉は、随分と幼い頃に覚えたような気がする。

「あの人、メーシーがいなきゃ生きていけないんですよ」
「あー。家事も子育てもやれそうにないもんな」
「まぁ、それもあるんですけどね」

それ自体は否定はしない。家事も子育ても、俺やメーシーの方が上手く出来ると断言出来る。彼女に家庭のことを任すなど、考えただけでも恐ろしい。けれど、俺が言いたいことはそうではなくて。

「メーシーに依存してるから、メーシーがいなきゃ生きてけないんです。俺がいくらメーシーと瓜二つでも、妹がどれだけ懐いてても、あの人にとっては何の役にも立たないんです。メーシーじゃなきゃダメで、メーシーがあの人の全てなんですよ」

いつか俺も、そんな風に愛してくれる人がほしいと思っていた。

愛してほしい。
受け入れてほしい。
俺の存在だけを全てにしてほしい。

その思いが強くなればなるほど不安になった。聖奈を受け入れるよりも先に、俺を深くまで理解してくれる存在を必要とした。親でも妹でもなく、もちろん恋人でもない。そんな存在が俺を安定させてくれた。

「でも、俺にはレベッカが必要なんです」
「都合のええ話やな」
「ですよね」
「ベッキーにあってセナに無いもんは何や」
「それは…」
「目、か」

左右が違う瞳の色。

マリーから受け継いだにもかかわらず、この瞳のせいで俺はマリーに真っ直ぐに視線を合わせてもらうことが出来なかった。

メーシーと同じ瞳を、妹と同じ瞳を…と、どれだけ願っても叶わないこの思いを諦めたのは、あの日…自分の右目を傷付けた日だったと思う。
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