state of LOVE
「聖奈は、これを綺麗だって言ってくれました。何の嫌味も無く、ただ純粋に」
「まぁ、そうゆう奴やわな。千彩に似とんや。そうゆうとこ」
「それは大前提なんです。大前提で、それだけじゃダメだった」
「我が儘か」
「ですね」

結婚、子供…と、聖奈との将来を考えれば考えるほどに不安で。もし俺と同じ瞳を持って産まれてしまったら…と考えると、怖くて堪らなかった。

聖奈ならば受け入れてくれる。マリーみたく視線を逸らすことなく、真っ直ぐに子供の目を見てやれる。そうは思うのだけれど、自分までそれを出来るのかと問われれば、今の段階では迷わず首を縦に振ることは出来ない。

「同じやからわかるってもんでもないやろ。お前とベッキーは育ってきた環境も違うんやし」
「そうなんですけどね。でも、同じ人間なんじゃないかってくらいわかるんですよ。俺も、レベッカも」
「わかっとると思うけどなぁ。そいつ、ちっちゃい頃から俺や恵介がびっくりするくらい察し良かったから」
「でもコイツ、心のどこかで俺を受け入れてない部分があるんですよ。多分、無意識だと思うんですけど」

俺の言葉に、ハルさんは「んー…」と天井を見上げ、そしてゆっくりと大きく息を吐いた。

「俺らのせいやわ、それ」
「え?」
「皆して千彩のこと構い過ぎたせいで、セナは大人ぶるしかなかったんや。ちーちゃんみたいにはなりません!ってよぉ言うとった。もっと…素直に泣いたり甘えたりしたかったはずやねん」

大人達は、いつだってちーちゃん。ハルさんは勿論のこと、聖奈を「マイエンジェル!」と呼んで可愛がってきたケイさんも、何かあれば迷わずちーちゃんを優先する。

そこに自分の恋人である俺まで加わったのだ。聖奈の我慢が臨界点に到達してしまった気持ちもわからなくはない。

「次の休みに、家に戻ります」
「は?美緒はどないすんねん」
「今日、美緒の母親から電話があったんです。暫く美緒を預かってくれって。どうせ三人でやっていかなきゃなんないんだから、いつからスタートしたって同じですよ」
「お前…嘘つきやな」

暫くどころか、美緒の母親は「もう育てられない」と言っていた。いくら幸せボケしていると言え、聡いハルさんにはお見通しなのだろう。けれど、俺にも張らなければならない意地があって。

「察してください。それがコイツのためなんです」

一度素直に本心をぶちまけたからと言って、「はい、明日からそれでいきます」というわけにはいかない。聖奈は聖奈で、俺は俺。二人で少しずつ変わっていくしかないのだ。

そのためには、ここに居てはいけない。聖奈が素直に甘えられない原因は、あまり言いたくはないけれど…ちーちゃんにあるのだから。
< 152 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop