state of LOVE
そんな俺の頬を、満腹になって満足したはずの美緒がペチンッと小さな手で叩いた。

「痛いですけどー」
「だー」
「叩くなよ」
「だーだ」

何かを訴えようとしているのだろうけれど、残念ながら俺には「だー語翻訳機」などは搭載されていない。いくら帰国子女とは言え、「だー」では通じない。当然だ。

「だー」
「何だろねー、それは」
「ん゛ー」
「おむつ?」
「だー」
「眠いか?」
「だー」
「わっかんねーな、ちくしょ」

いくら妹がいると言えど、年が近過ぎる。幼少期に面倒を見た覚えなどない。寧ろ、成長してからの方が面倒を見た気がする。

「だー」の連呼に悩む俺を見ながら、大人達はそれぞれに笑いを堪えているようで。そんな大人達とは対照的に、聖奈はむぅっと不機嫌そうな表情を浮かべた。

「美緒ちゃん、マナはセナのですよ」
「こんなチビに言ったってわかるかよ」
「ダメです」
「あーもうっ!うっせーな」

レベッカが相手ならばまだしも、美緒にまでこうしつこく妬かれては正直鬱陶しい。さっきのあれが無ければ、まだまだ余裕で受け入れてやれたかもしれないけれど。

「そんなんで弟の面倒見れるのかよ」
「美緒ちゃんと陽彩は違います」
「あーそうかよ」

ハルさんとちーちゃんとの間に産まれた子は可愛くて、俺との間の子は作りたくない。何なんだ、それは。まるで「アンタは嫌!」と言われているようだ。そりゃ不機嫌にもなる。

そんな俺によじ登り、何を思ったのか美緒がグッと顔を近づけてちゅぅっと唇を吸った。それにはやられた本人の俺を始め、皆大驚きで。

満足げにちゅぱっと離してキャッキャと笑う美緒を俺の腕の中から奪い取ったのは、半眼になった聖奈だった。
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