state of LOVE
「何か…あったんすか?龍二とセナ」
「いや…特には」
「辛かったって言ってましたけど」
「まぁ…あれやな」

ハルさんが俺やメーシーに対して言葉を濁すことはあまり無い。濁したとて、結局はやんわりと追い込まれることをわかっているからだ。

それでも濁そうとするのだから、これは話したくない何かがあるのだろう。そう判断して引こうとした俺に、ハルさんは美緒を差し出してポケットから電子タバコを取り出した。

「龍二な、昔育児放棄されとったんや」
「育児放棄?」
「一時だけなんやけどな。そんな龍二を、ある日突然セナが拾ってきよった。それが俺らが家族になった始まりや」
「だからって…」

だからと言って、俺の子を産みたくないという理由には繋がらない。しつこいようだけれど、俺はそこで気分を害しているのだ。

「千彩もそうやった。メーシーは知っとるよな」
「まぁ…少しは」
「龍二の母親は、結局誰かわからん。親父はまぁ…女に刺されて死んだわ」
「あぁ…聞きました、それ」

俺と龍二が友達になった日、聖奈がここで大暴露していた。何だか懐かしい…とソファに視線を遣った俺に、美緒が「んあー」と大あくびをしながら擦り寄る。

「千彩は、10歳になるまで言葉も喋られへんような子供やったらしい」
「そう…ですか」
「そんな千彩を置いて、母親は千彩の目の前で自殺した。父親が誰かもわからんまま、千彩は吉村さんに育てられたんや」
「それに…どう返せと?」

思わず言ってしまったものの、苦々しいメーシーの表情に気圧されてグッと口を噤む。

「今の千彩見てもわかるやろ?普通の…あれくらいの年の女とはちょっと違うんや」
「まぁ…そうっすね」
「せやから、俺は千彩に付きっ切りやった。千彩のことばっか気にして、セナのことは二の次やった。セナは恵介が育てたようなもんや」

それは今でも変わってないんじゃ…とは、さすがに言えなかったけれど。

「ロクな親見てへんからな、セナは。ほら、恵介もうちの家に入り浸りで、自分の家庭は二の次にしとったし」
「まぁ…それでよく奥さん怒りませんね」
「恵介の嫁さん、俺らの学生時代の後輩なんや。文句は全部俺に来る」
「へぇ…」

それもそれで嫌だな。と、自分の親友がそんな傍迷惑な人物でないことを有り難く思った。
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