state of LOVE
「何で殴られたか言ってみろよ」
「…お口が過ぎました。ごめんなさい」
「違うだろ」
「セナは間違ったことは言ってません」
「間違ってるよ」

今にも泣き出しそうなのは、冷たく怒る俺を見上げている美緒で。そっと抱き上げて唯一硬直していないメーシーに預けると、苦笑いながらも黙って受け取ってくれたことに感謝した。

「俺は両親を愛してる。感謝しても恨んでることは一つもない」
「それはマナがそう思い込もうとしてるだけです」
「じゃあお前は、自分の母親に哀れまれたことがあるのか?申し訳なさそうに視線を逸らされたことがあるか?可哀相だと泣かれたことがあるか?」
「それは…」

いつだってマリーは、俺を「可哀相だ」と言った。言葉ではなく、目で。祖父も祖母も、そう思ってか俺を褒めることしかしなかった。

だから俺は、いつだって優秀に努めた。妹と違い、叱られるようなことはしなかった。優秀に優秀を重ね、褒める要素しか与えないようにした。

たとえ疎まれていたとしても、俺はマリーを、自分を産んでくれた母親を好きでいたかったから。

「俺はそれでもマリーが好きだった。たとえメーシーと結婚したいがためだったとしても、自分のキャリアを犠牲にしてまで俺を産んでくれたマリーに感謝してる。育ててくれたメーシーに感謝してる。お前は何で感謝しない。自分の命を引き換えにしようとしてまでお前を守ろうとしてくれたちーちゃんに、大切に家庭を守ってくれたハルさんに、何で感謝しない」
「して…ますよ。セナだってしてますよ!」
「だったら何でそんな言葉が出るんだよ」

どうやら、俺の口も絶好調らしい。けれど、それとは反対に脳ミソは回転不足だ。昨日の子供事件に続き、今のハルさんへの異常な突っ掛かり。何かがある。そうわかってはいるのだけれど、三木家の事情はいまいち読み切れない。

「お前、昨日からちょっとおかしいぞ」
「セナはいつもと変わりません」
「何があった」
「何もありません」
「嘘つけ。陽彩が産まれる時に何かあったんだろ?じゃなきゃお前がそんなこと言うかよ」

俺にしては珍しく、言葉を使って問い質す。

本当はこんな手段を使いたくはない。けれど俺は、出勤前で時間を急いているわけで。うやむやにしたままこの場を抜け出し、帰宅した時には物事が解決している。

…なんて都合の良いことは望めない。相手は三木聖奈なのだから。
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