state of LOVE
「はるが…言ったんです」
「何て?」
「セナの時みたいになったらどうしようかと思ったって。お前あってこその俺の世界だって」

聖奈の言葉に、硬直を解いたハルさんが慌てて弁明しようと言葉を探している。

けれど、見つからなかったのかそのまま黙りこんだ。情けない。

どうして咄嗟とはいえ、言い包める言葉を探し出せないのか。いつもの頭の回転ぶりはどうした。相手は我が子だろうに。

あぁ、我が子だから扱い難いのか。

「それがどうした」
「悲しかったんです。セナは産まれなければ良かったって言われてるみたいで。ずっと…ずっと寂しかったのに!それでもずっと我慢してきたのに!」
「だから何だよ」
「だから…」

ヤバい。本気で苛立ってきた。これは早々に決着をつけねば。と、俯く聖奈の顎を持ち上げて視線を合わせる。俺の右目は、何でも見透かして射抜ける。そう信じて。

「お前にはケイさんがいたはずだ」
「けーちゃんは…セナの親ではないです」
「だから何だよ。それでもケイさんはお前を十分に可愛がってくれただろ。失礼にも程があるぞ、お前」

何て奴だ!と、もう一発くらい打ってやりたくなる発言に、グッと目を細めることで怒りを堪える。俺達は恵まれた環境にいる。たとえ思い通りの愛情が手に入らなかったとしても、その他は何不自由無く暮らしてきたはずだ。だからこそ、もっと…もっと…と欲が出る。

「美緒は俺が連れてく。昼は志保さんの店に行くから弁当は要らない」
「…はい。わかりました」

親指で涙を拭ってやると、俺を見送るために聖奈は重い腰を浮かせた。良妻意識の強い聖奈が、仕事に出かける俺を見送らないはずがない。それに満足した俺は、苛立ちを捨て去ることに簡単に成功した。

「あれ?」
「それ、君達が子供の頃のやつなんだ。使いなよ」
「よく残ってたな」
「愛妻家に加え、子煩悩だからね、パパは」

世の中には立派な「パパさん」もいたもんだ。と、靴を履いて古い型のチャイルドシートを担ぎ、扉の開閉を聖奈に任せる。

自己嫌悪に陥っているだろう人と脳内がパニック状態だろう人は置き去りにし、メーシーだけは見送りに出てくれた。

まぁ、俺がどう聖奈を動かすのか、最後まで見届けたかっただけだろうけれど。

「セナ」
「はい」
「ちゃんと間違いを認めて、二人の父親に謝罪しとけ」
「…はい」
「夕食はすき焼きで許してやる」
「え?」
「お前は俺のonly oneだ。まだ資格は剥奪されてない」

腰を屈めて唇を重ね、よいしょと美緒を抱き直す。

これで一件落着だろう。と、漸く日差しを運んでくれた太陽を見上げた。
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