state of LOVE
マナの車が見えなくなるまで見送ってから、セナちゃんは両手で腕を擦りながら戻ってきた。そして俺を見上げ、情けない顔で笑って頭を下げる。

「朝から騒々しくしてすみませんでした」
「麻理子やレイの言いがかりに比べたら、知的な分だけ嫌な気分はしなかったよ」
「優しいですね、メーシーは」

相変わらず礼儀正しいセナちゃんに、これでも30年以上フェミニストで通ってますから…と、ふふっと軽く笑ってみせる。

「マナにまであんなことを言わせてしまって…申し訳ないです」
「いいんだよ。俺は俺で最低だったってわかってるから」

そう。俺だってわかっていないわけではない。そこまで麻理子バカではない。

俺は俺なりに最善の手段を取った。それでなければ、きっと我が家は早々に崩壊していたことだろうから。

「メーシーは…」
「ん?」

リビングの扉を開く手前で、セナちゃんの小さな声に引き留められた。俺はマナほど鬼畜精神は持ち合わせていないので、にこやかな表情で振り返って首を傾げる。

いつも通り、皆に「メーシー」と呼ばれる俺の顔。

「メーシーは、マリちゃんを愛してますか?」
「勿論だよ。俺も王子と同じ。麻理子がいなきゃ世界が成り立たない」

嘘八百とは言い難いけれど、志保が聞けば腹を抱えて笑うだろう。けれど、これが皆が望む「メーシー」の発言。

それを崩さずにいることが俺の務めである。

と、50目前の今でも胸を張って言える。

「じゃあ、マナやレイちゃんのことは?」
「愛してるよ。でも、彼らは俺の全てじゃない」
「だったら…」
「麻理子は俺の生涯のパートナーだから、同じ世界を共有するのは当然。でも、彼らは違う。俺と麻理子の愛の証であって、俺と麻理子じゃない。彼らがいることで、俺達はいつまでだって愛し合っていられる。セナちゃんに言わせれば、自分勝手なんだろうね」

正直、そう言われた時は自分のことを指摘されたようでドキッとした。

ドキッとしただけで、苛立ちも悲しみもしなかったけれど。そこがダメなのだろう。と、少しくらいは反省をしてみるのも良いかもしれない。
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