state of LOVE
「お名前は?って言ってもわかんねーか」
「だー」

やっぱりな。と、独り言も弾むというもので。そろそろ起きて事情を説明してはくれないものだろうか、うちの婚約者さんは。

「もしもし、セナさん」
「んー…」
「セナさん、旦那様のお帰りですよ」
「ん…マナ…」
「はいはい。マナです」

予定日より早まったちーちゃんの出産に付き添っていたため、この数日の聖奈は相当な寝不足で。やっと解放された…と、昨日は学校から戻って早々に寝ていた気がしなくもない。

「寝すぎだろ、お前。てか、この子何?誰?」
「んー…その子は美緒ちゃんです。お隣の子です」
「隣?」

あぁ、あの煩い家か。と、夜中に帰宅してギャーギャーと騒ぎ始める迷惑な隣人の顔を思い出す。そう言えば、子供の泣き声も聞こえていたような気もする。

「何で隣の子がうちに居るんだよ」
「帰ってきたら、玄関の前に居ました」
「はい?」
「何度尋ねても留守みたいなので、うちでお預かりしてます」

お預かりしてます。じゃねーよ…と言いたいのはやまやまなのだけれど、俺の膝の上で楽しそうにはしゃぐ美緒がそうはさせてくれなかった。

「わー…セナ、タオル」
「え?」
「取り敢えずおむつ履かせようよ、おむつ」

じんわりと温かくなっていく足の感覚に、思わずため息が洩れる。

嫌な予感がしたんだよ。子供という生き物は、無邪気に笑ってこうゆうことをしてくれるから恐ろしい。

「大丈夫ですか?」
「見ればわかるだろ。風呂入ってくるわ」
「え?」

受け取ったタオルで取り敢えず水分を拭き取り、美緒を抱えたまま立ち上がる。聖奈は驚いて目を丸くしているけれど、このまま放っておくわけにもいかない。

「風呂入れてる間におむつ買ってこいよ。コンビニに売ってるだろ」
「えっ…と」
「何?」
「美緒ちゃん、女の子ですよ?」
「こんだけ小さけりゃどっちでも一緒だろ。ついでだ」
「…わかりました」

不満げな聖奈は、ラグが濡れていないことを確認してゴソゴソと自分のカバンを漁り始める。それを止めてポケットから抜き取った財布を渡すと、コクリと頷いて少し唇を尖らせたまま黙って立ち上がった。
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