state of LOVE
「取り敢えず…お前の服でも作るかな」

すんなりと眠りに就いた美緒をソファに置き、ボツになったサンプル品の中でも特別生地が柔らかいものを何着か集めて広げてみる。

ノースリーブのワンピースやスカートくらいならばお手の物だ。伊達にワガママ姫の服の手直しを続けてはいない。トップスはレベッカに任せればいい。と、携帯を開いて発信履歴からコールした。

『Hi.』
「もう出た?」
『今出たけど?』
「ちょっと服屋寄ってくんね?どこでもいいから」
『服屋?』
「そ。二歳児、女物。サンプルの0032の生地使ってスカート作るから、適当に色合わせてトップスとアウター、あと靴下買ってきて」
『I see.』

聖奈とは違い、レベッカは「察する」ということを知っている。だからこそこうしてパートナーをやっていられるのだけれど、ここまで察しが良いと逆に気持ち悪くなる時もある。

「事情は来てから説明する」
『わかってるデスヨー』

おどけた外人口調にももう慣れた。ふふっと笑うレベッカに「早くな」と付け足し、衣装の仮縫いを解いてスカートの製作に取り掛かる。

さすがにニットは解けないから…と選んだ赤×黒のチェック柄のワンピースは、ハルさんが指定した生地なだけあって超一級品だ。自ら指定したにも関わらず「やっぱ千彩のイメージとちゃうからボツ」と軽く言ってしまうあたり、デザイナー泣かせにも程がある。

そもそも、いくら学生バイトだからと言え、私用でデザイナーをこき使うのはやめていただきたい。この事務所でのデザイナーの仕事はあくまでも「デザイン」なのであって、本来ならば仮縫いやら何やらは他がやってくれるのだ。その分もきちんと給料はくれているのだけれど、仮縫いまでやらされボツにされる俺の心情も少しは汲んでいただきたい。


「まぁ、無理か」


ちーちゃんのこととなると、ハルさんの執着や拘りは「異常」の一言に尽きる。実は俺より危ない人物なのではないだろうか…と、何度思ったことか知れない。


「だからすれ違うんだよ、あの父と娘は」


そうボヤいたとて、誰もその願いを聞き入れてはくれない。うちの両親も、三木夫妻も、ケイさんも、勿論聖奈も。

どうしてこうもトラブルばかり起こる家庭に生まれたのだろう。とため息を吐く俺の後ろで、今回のトラブルの火種はスヤスヤと寝息を立てていた。
< 41 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop