state of LOVE
「あの人が嫌ってるのは志保さん。昔から大嫌いだって言ってたからな」
「私はシホのこと好きだけどな」
「あぁ。メーシーにソックリだもんな、あの人」

新たな塩を塗ろうとする俺に、今度はしかめっ面が返される。ここらでやめておかなければ、後でどんな反撃をされるかわからない。

レベッカ、メーシー、志保さんの三大悪魔には逆らわないに限る。

「で?どうやって説得したんだよ、あのアラフィフ悪魔を」
「知りたい?」
「そんな高等技術、俺は持ってねーからな」

うちの父親は、如何せんあの通りの含みっぷりの人間で。ハイハイと従っているように見せかけてしっかりと主導権を握って家庭内を回しているような人なのだから、適うはずがないと諦めるしかなかった。

そんなメーシーを素直に納得させられる魔法の呪文のようなものがあるのならば、是非ともマスターして使ってみたい。それが好奇心というものではないだろうか。

「シホがしてくれたの。残念でした」
「なんだ。悪魔vs魔女かよ」
「マリコが嫌がりそうな組み合わせ」
「あぁ、ぜってーな」

学生時代に何があったのか知らないけれど、マリーは志保さんを見るとサッとメーシーの背に隠れてしまう。あれから何故か数回一緒に食事をする機会を設けたのだけれど、そのどれもにマリーは欠席だった。

「元カノとか?」
「それはないだろ。メーシーの初恋はマリーだからな」
「ただの幼なじみにしては怪しい」
「それは俺も思う」

二人して頭を悩ませてみても、当然答えが出るはずもなくて。腕の中で大人しくあめ玉をしゃぶる美緒に頬を寄せ、コーヒーカップを傾けた。

「で?」
「で?って?」
「誰なの?そのcut girl」
「あぁ、隣の家の子供」

今頃かよ!と、レベッカ相手にツッコんでも仕方がない。レベッカはレベッカなりに考え、俺の心情を察した上でこのタイミングなのだ。

出来る女はさすがに違う。と、素直に称賛すべきだろう。

「誘拐?」
「いや。置き去り」
「ワーオ。日本は穏やかじゃないデスネー」
「だな」

そう。簡潔に言えば置き去りなのだ。

預かってと言われたわけでもなく、危ないから保護したわけでもない。聖奈の話では、玄関先にポツンと座っていたという。
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