state of LOVE

 漆黒の闇に射す光

途中「だー!(下りる!)」と言って暴れ始めた美緒を渋々下ろして歩かせたものだから、志保さんの店、その名も「escape」に俺と美緒が辿り着いたのは、ハルさんよりも随分と遅れてからだった。

カフェとしてはどうかと思うネーミングなのだけれど、日々身内の引き起こすトラブルという危険に晒されている俺の逃げ場としてはちょうどいい。そんな風に思ったのは、メーシーとレベッカの一件があってからだったような気がする。


扉を引くと、揃った身内の視線が一斉に注がれる。

悪魔にロリコンに遅刻魔に執着honey、そして魔女。

うちの身内は見事に色濃い人物が揃っている。女王様とワガママ姫がいないだけまだマシか…と思い直すも、唯一の浄化色であるちーちゃんの不在により、俺には闇色の要素しか見つけ出せなかった。

「どうしたの?そんな嫌そうな顔して」
「別にー。志保さん、ベッキーがチーズケーキ土産に寄越せって」
「あらあら。それが噂の美緒ちゃん?ちょっと抱かせて」
「いいけど…」

チーズケーキ忘れないでよ?と念を押す俺に、志保さんはいつもの「うふふ」で答えた。

「あらー、可愛い。おめかししてどこ行くの?」
「だー」
「その服どうしたの?」
「レベッカに頼んだんだよ。さすがにあれじゃ可哀相だからな」

カウンターで志保さんと並んで座っていたメーシーにそう返し、ふと気付く。そう言えば清算するのを忘れた、と。あまりにすんなりと渡されて着替えさせたものだから、すっかり忘れてしまっていた。

「わざわざ買いに行ってもらったんですか?」
「おぉ。出勤前に行ってもらった」
「もう少し待ってくれてたら、ここにこんなにあったのに…」

聖奈が指すのは、隅に置かれた大きな紙袋。因みに二つ。入った時から目に入っていたのだけれど、敢えて無視をする方向で視界から外した。これだけ痛い人物が揃っているのだ。いずれこうなることは予想の範囲内だ。

「買ったのか?」
「いえ。セナの小さい頃の分を持って来ました」
「わー。凄いね、お前の両親」
「作ったのはけーちゃんですよ?」
「大事に保管してあるのが凄いっつってんの」

ポンッと聖奈の頭に手を置き、紙袋の中身を覗き見る。
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