state of LOVE
「いつだってせーと、いつだってちーちゃん、いつだってセナ。恵介はそればっかりや。結婚しても、太一が産まれても、恵介はいつだってせーとや!」


じっとケイさんを見据えながら、奥さんは唇を噛む。見ているこっちの胸が痛い。

日頃ドライな俺の胸でさえ痛むのだ。当事者の三人の胸は、張り裂けそうなほどに痛んでいるに違いない。特に聖奈は。

小刻みに震える肩が、限界を訴えていた。グッと唇を噛み涙を必死に堪える聖奈は、一度ギュッと目を閉じて立ち上がる。


「ごめんなさい」


深々と頭を下げた聖奈を、慌てて立ち上がったケイさんが抱き寄せた。そう、あろうことか奥さんを押し退けて。

空気が読めないのも、ここまでくると特技か何かと勘違いしてしまいそうになる。

「セナが悪いんちゃうからな。な?気にせんでええから」
「けーちゃん…」
「大丈夫や。けーちゃんはいつだってセナと一緒におる。大丈夫や」

こんな光景はもう見慣れたものだ。そう、俺達にとっては。

「けぇすけぇ」
「恵介…空気読もうや、お前」

怒りに震える奥さんと、頭を抱えるどころか、いっそのこと割りたいくらいにはなっているだろうハルさん。それでもケイさんは、自分の意思を貫こうとギュッと聖奈の頭を抱え込んだ。

「セナが気にすることとちゃうからな。気にせんでええから」
「うちの話聞いてる?」
「聞いてるわ」
「あーっそ」

もうええわ。と怒りを収めた…いや、呆れた奥さんは、一度大きく周りを見渡し、俺達の存在に気付いてハッと息を呑んだ。

今更取り繕ったところでどうにかなるはずもないのだけれど、それでもどうにかイメージチェンジを図ろうとペコリと俺達に頭を下げる。

「お騒がせしてまーす。初めまして。恵介の家内です」
「ふふっ。改めて初めまして。佐野です」
「佐野…さん?」
「あぁ、メーシーって言ったらわかるかな?」
「あー!はいはい!メーシーさん。いつも主人がお世話になってます」
「こちらこそ」

相変わらずの胡散臭さで、メーシーはその場を取り繕わさせてやる。これも優しさだ。と、それに倣おうと笑顔を作って立ち上がった俺に、奥さんは「あー!」と叫び声を上げた。

「マナト君?」
「あぁ…はい。初めまして」
「うわぁ…聞いてた通り。ホンマにお父さんソックリなんやね」
「あー…よく言われます」

同じ顔だ!とかMEIJIの若いバージョンだ!とか、事務所内で会う人は口々にそう言う。「初めまして」の後には必ずこれ。そう決まってしまっているものだから、俺としても言われない方が違和感がある。

「セナちゃんの彼氏なんやってね」
「あー、はい」
「恵介が怒ってたよ。マイエンジェルが取られた!って」

どうやら完全に怒りが冷めたらしい奥さんは、俺とメーシーを前ににこにこと笑顔で。えらく切り替えが早いな…と、さすがに戸惑ってしまう。
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