state of LOVE
「お前はほんま…瞬間湯沸かし器か何かか。しんみりして損したわ」
「はぁ?何言うてんの、せーと」
「はぁ?ちゃうわ。取り敢えずこの場の空気を何とかしろや。乱すだけ乱して放置しやがって」
「場?あー、そうや!恵介!あんた…今日から帰って来ん度に一万ずつ小遣い減らすからね!」
「えー!」
「えー!ちゃうわ。これ決定。嫁をナメんなよ!」
「いや、ナメてないけど…」

再び噛み付いた奥さんを前に、ケイさんはもうタジタジで。それを見たハルさんは、「何やもう…」と言いながらもトラブルを解決出来てホッとしているようだった。

そんな大人達はいい。自分達はスッキリ和やかなムードで場を収めたつもりなのだから。

けれど、俺達子供は違って。いつになく重い空気を纏う聖奈に何と声を掛けようか思案していると、ふとケイさんの奥さんが俺に視線を寄越して申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「ごめんね、マナト君」
「はい?」
「セナちゃんのご機嫌損ねたかも」
「あぁ…バッチリ損ねてますね」
「こらこら。そうゆう風に言わないの」
「いや、だって…」

俺の苦労も少しは考えろよ。と、窘めるメーシーを睨む。けれど、それがメーシーには何の効力もないことは、19年近く息子をやっていれば自然とわかるというものだ。

「セナちゃんのご機嫌取りは君の役目だろ?」
「いや、俺これから仕事なんですけど」
「仕事と家庭とどっちが大事かな」

勿論、仕事だ。そう言いたいのはやまやまなのだけれど、この調子では良からぬとろこに飛び火して、今度はこちらが大爆発しそうだ。はぁ…と大きなため息を吐いて諦め、美緒を抱いたままゆっくりと歩み寄ってケイさんの腕の中に収まっている聖奈の腕を引いた。

「いつまでそうしてんだよ」
「あぁ…ごめんなさい」
「ちょっと代わってくんね?腕が痺れて限界」
「はい」

いくら幼児と言えど、眠って力が抜けきっている体をずっと抱きっぱなしではさすがにツライ。落とさぬように慎重に美緒を受け渡し、奥さんに睨まれて動けないままでいるケイさんに八つ当たりの抗議をした。
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