state of LOVE
「ベッキーはわかり過ぎて不自由だし、セナはセナで色々不自由だ。中間が一番だよ、中間が。わかるか?美緒」
「だー」

パシャッと水面を叩く美緒の手は、小さく、とても柔らかで。二日前に生まれた三木家の長男、陽彩(ひいろ)の手は小さすぎて触れることさえ躊躇われたのを思い出す。

「まっ、元気で何よりだ」
「だー」

一方通行の会話も、これだけ可愛げがあればまだ許せるというもので。パシャパシャと水面を叩いて遊ぶ美緒に付き合いながら、カチャリと開いた扉の音に人影を確認した。

「早かったな」
「すぐに戻ると言いました」

相変わらず、聖奈は俺に忠実且つ従順で。ケイさんにはよく「やり過ぎや!」と注意されるけれど、愛情の欠如を感じていた俺にはこれくらいがちょうどよかった。

「温まったなら、美緒ちゃん受け取りましょうか?」
「だな。お前も入ってくりゃいいのに」
「…遠慮しておきます」

入ってしまったが最後、安易にはここから出られない。それがわかっている聖奈は、少し間を置いて冷たい口調で切り返してきた。

「まさか美緒の前でそんなことしませんよー」
「それは嘘ですね」

アッサリと否定され、返す言葉もなくて。「あちゃー」と苦笑いをして美緒を差し出すと、ついでに水洗いを終わらせた服一式を洗濯機に放り込んだ。

「洗濯、もう回していいか?」
「今からですか?」
「干し終わったら実家行こう」
「メーシーのお家に?」
「夕食ご馳走になろうぜ。マリーに電話しといて」
「はい。わかりました」

こんなチビがいては、夕食の準備が手早く済ませられるとは到底思えない。それならば、実家に行ってメーシーの手料理をご馳走になった方が早いし腹も満たされる。


何より、これから起こりえるだろうとんでもない出来事を、俺の敏感なトラブルセンサーが敏感に察知していたのだ。
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