state of LOVE
「ちーちゃん、ハルさんのこと好き?」
「え?うん!大好き!」
「セナのことは?」
「大好き!」
「俺は?」
「大好き!」

何の躊躇いもなく答えるちーちゃんに、聖奈は呆れたように「もういいです」と言って美緒を抱き上げようとした。

けれど、ペタリとちーちゃんにひっ付いて、更には胸に顔を埋めてしまっている美緒がそれに素直に従うことはなかった。

「美緒ちゃん、抱っこしましょう」
「やー」
「美緒、こっち来い」
「やーやー」

聖奈の呼び掛けも俺の呼び掛けも拒否し、美緒はちーちゃんの胸に顔を埋めたまま小さな手で何かを探し始めた。これはまさか…と、昨夜の光景を思い出す。それは聖奈も同じだったようで、うーんと困り顔をした。

「ちーちゃん、これくらいの年ってまだおっぱい飲む?」
「うーん。どうやったかなぁ。飲みたいん?」
「俺じゃなくて美緒がね。多分飲みたいんだと思う」
「あげよっか?」
「いい?」
「うん、いいよ!」

じゃあ俺は外に…と言う暇もなく、ちーちゃんはパジャマの前を肌蹴させてしまい、「あちゃー」と視線を逸そうとした俺は、今この瞬間にハルさんが到着しないことを心底願った。

「飲んでますか?」
「うん、飲んでるよー」
「やっぱり必要だったんですね」
「あー…みたいだな」
「どうしたんですか?」
「今ハルさんが来たら、俺死ぬかもなーと思って」
「そんなことはさせないので大丈夫ですよ」

そう言って、聖奈はグイッと俺の顔をちーちゃんの方へと向けた。何をする!と抗議しなければならないことはわかってはいるのだけれど、言葉が喉の奥に詰まって出てこない。あまりにも綺麗なちーちゃんの姿に、俺は声も出せずに見入ってしまったのだ。

「こうして見ると、ちーちゃんはママですね」
「あぁ…うん」
「可愛いー!ヒロも早くおっぱい飲んでくれへんかなー」
「陽彩は飲まないんですか?」
「何かねー、上手に飲めないんやって。セナもそうやったよ」
「そうだったんですか」
「うん。はるも挑戦したけど、難しいって言ってた」

あまりにサラッと言うものだから、俺も聖奈も顔を見合わせて「へぇ…」と言うしかなかった。

そんな俺達に首を傾げるちーちゃんは、どこまでも無邪気で。ぷにぷにと美緒の頬を突きながら、ひと時の母親気分を堪能しているようだった。
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