state of LOVE
「はるー、ヒロは?」
「今検査中やて」
「何の検査?来たと思ったらすぐ連れて行かれたよ」
「大丈夫や。心配要らん」

ハルさんのそんな曖昧な言葉にでも笑顔で「うん!」と言えるちーちゃんは、ある意味貴重な人物だと言える。俺なんてこの通り歪んで育ってしまったものだから、その言葉に含まれるだろう意味を必死に探り出そうとしているというのに。

「一緒に退院出来る?」
「それはちょっと無理やな」
「そっかー。なんで?」
「んー…せやなぁ。ヒロはついこないだまで千彩のお腹ん中おったやろ?」
「うん」
「せやから、まだ外に慣れてないんや」
「いつ慣れるん?」
「もうちょっとかかるわ。待っといたろ。な?」

眠ってしまった美緒を受け取り、ハルさんはちーちゃんのパジャマのボタンを閉じてそっと髪を撫ぜた。

「ねー」
「ん?」
「次いつ赤ちゃんできる?」
「はい?」
「ちさもヒロも元気やったら、また赤ちゃん産んでいいって言ったやん」
「あー…」

キラキラと瞳を輝かせ、ちーちゃんはじっとハルさんを見上げていた。

ちーちゃんのあの目に勝つのは、至難の業だと思う。ハルさんは勿論のこと、あの目を拒絶可能な人物を、俺は今まで見たことがない。そんな魔性の瞳だ。

「子供は…もうええやろ」
「セナはもうお家にいないし、ヒロ一人じゃきっと寂しいよ?」
「俺もお前もおるやん」
「でも、マナはいっつも寂しいって言ってた」

不意に名を出され、無意識に肩が跳ねる。どうにも見透かされた気がして。ちーちゃんに限って…とは思うのだけれど、真っ直ぐに俺を見つめる瞳に薄っぺらい反論は出来なかった。

「ね?次は女の子がいい」
「女の子がええ言うても…次に女の子が産まれてくるとは限らへんぞ」
「いいのー。早くしないと、たっちゃんのお嫁さんが決まってしまうかもしれへんよ?」
「あー…まぁな」

ケイさんの言葉を思い出したのか、ハルさんの表情は途端に曇ってしまった。

これはもう一人か二人は義理の弟か妹が増えるな。と、長女を掻っ攫う俺は悟る。それが通じたのか、ハルさんは緩く首を横に振って美緒をちーちゃんの隣にそっと下ろした。
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