state of LOVE
タオルで髪を拭きながらリビングへ行くと、そこでは滅多にお目にかかることのできないだろう攻防戦が繰り広げられていた。

「美緒ちゃん、これを着てください」
「やー」
「風邪を引きますよ!」
「だー」

自分のロンTを片手に美緒を追う聖奈と、そんな聖奈から逃れようとおむつ一枚の元気な姿で走り回る美緒。

やれやれ…と、ちょうど俺の足元に到達した美緒をひょいっと抱き上げ、聖奈の手からロンTを奪い取って美緒の頭をその中に突っ込んだ。

「何してんの、お前」
「美緒ちゃんが逃げるんです」
「美緒、ちゃんと着ろ」
「だー」

その「だー」は、「わかった」という了承の返事だと解釈しても良いのだろうか。うーんと悩む俺に、美緒はニッと笑って手足をバタつかせた。

「あっ…ぶね。落ちるぞ、お前」
「だー!」

余った袖でパシパシと叩かれて床に下ろすと、美緒は一目散に冷蔵庫へと駆けた。そして扉をペチペチと叩き、何かを訴える。

「お腹が空いたんですかね?」
「どうだろうな。マリーに電話した?」
「出なかったので、メーシーに電話しました」
「出なかった?メーシー何て?」
「マリちゃんとレイちゃんは、NYに行ってるそうです。なので、仕事が終わったら急いで帰るって言ってました」
「NYね。どうせハルさんも来るだろ。ケイさんも」
「ですね」

今頃あの二人は、ちーちゃんの病室でまったりとしていることだろう。

面会時間は午後八時まで。あと一時間もすれば、二人揃って追い出されてうちの実家へと雪崩れ込む。

昨日も一昨日もそうだったから、今日も今日とてそうなるだろう。

「荷物用意して。俺のも」
「え?」
「あっち泊まった方が楽だろ。お前は休みだけど、俺は明日も明後日も仕事だから」
「美緒ちゃんのママ、夜中には帰って来ますよ?」
「帰ってこねーよ」

おそらく、美緒の母親は戻って来ない。

それが「ずっと」か「一時だけ」かはまだわからないけれど、暫くの間は美緒をうちで預かることになるだろう。

一人で湯船に浸かりながら、そう覚悟を決めていた。
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