state of LOVE
待つこと数十分。

ボストンバッグを両手で提げて降りてきた聖奈は、リビングを駆け回る美緒を視線で追い、ふぅっと小さくため息を吐いた。

「走ってはダメですよ?危ないです」
「だー!」
「いいじゃんなー。楽しいもんな」
「ここは平気ですけど、うちはマンションなんですよ?ご迷惑になります」
「そんな安いマンションじゃねーだろ」

何と言っても、売れっ子カメラマンの住むマンションだ。あの辺り一の高級マンションと言っても過言ではない。こんな小さな子供が走り回ろうが、飛んだり跳ねたりしようが、下の階に音は響くまい。

「そうゆう問題じゃないんです。これは躾けです」
「躾け…ねぇ」

俺に躾けられてるくせによく言うよ。と、出かかった言葉を無理やり呑み込み、立ち上がって聖奈の両手にしっかりと掴まれたボストンバッグを受け取った。

「一つ?」
「はい。マナの分だけです」
「は?お前のは?」
「セナのは、ここに持って来た以上のものが家にありますから」
「あー…」

相当な量なんだろな…と表情を歪めた俺を見上げ、聖奈は一つ大きく息を吐いて美緒を抱き上げた。

「美緒ちゃん」
「だー」
「今日はマナとセナが美緒ちゃんのパパとママですよ」
「だー」
「仲良くしましょうね」

頬を擦り寄せ、聖奈は笑った。

こうゆうところはさすがちーちゃんの娘だと思う。本当は不満だろうに、それでも笑ってくれる。勝てないよなぁ…と思う瞬間。

「取り敢えずメシだな」
「そうですね。美緒ちゃんもお腹が空いてくる頃でしょうし」
「何か食いに行く?」
「無駄遣いはやめてください」
「いや、だって…」
「うちに行く前にスーパーに寄ってください」
「作んの?」
「勿論です。せっかくですから、皆さんにもうちに集合してもらいましょう」
「まぁ…お前がそう言うなら」

美緒にポンチョを着させて用意を済ませた聖奈は、もうすっかり母親気分で。小さな美緒の手を取り、「いい子にしてくださいね」などと笑いかけている。

この態度の差は何なんだ。と、今度は俺が美緒に嫉妬したい気分だ。

「美緒、それ俺の奥さんだからな」
「大人げないですよ、マナ」
「うっせー」

後ろから抱き締めると、すっぽりと俺の腕の中に収まる小さな体。
そして、そんな俺達を見上げながら、足元にしがみ付く更に小さな体。

これがこれから俺が守って行くべきものになるのか。と、少しだけハルさんの思いがわかった気がした。
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