state of LOVE
三木家での食事会が落ち着いたのは、22時を回ってからだった。

メーシーとハルさんは酔っ払って何やらくだらない言い合いを始めるし、昼間にぐーすかと十分な睡眠を取った美緒は、食事を終えて聖奈と風呂に入ってもまだ余るほどの元気ぶりで。

「やっと解放されたー!」

と、呼ばずとも嗅ぎつけて乱入してきたケイさんには、もはやツッコむ気さえ起こらなかった。

「マイエンジェール!昼間はごめんな?ビシッと言うといたからな!」
「ビシッと言われなければならないのは、けーちゃんだと思いますが」
「そんなん言うなやー。俺の愛しいマイエンジェル!」

擦り寄るケイさんに、聖奈は心底迷惑そうで。呆れてものも言えない…と、言葉にせずともその猫目が語っていた。

「ケイ坊、出てきちゃって平気なの?奥さん随分怒ってたみたいだけど」
「大丈夫、大丈夫!ビッシー!と言うてきたから」
「どうせまた怒らして出て行け言われたんやろが」
「え?」
「俺の携帯が鳴っとる」

そう言って指されたハルさんの携帯は、確かに着信を告げるランプがチカチカと点滅している。慌てるケイさんを横目に盛大なため息を吐いたハルさんは、それを手に取り「おっ?」と目を丸くした。

「どうしましたか?」
「大介さんや。ヒロの退院はまだ先や言うたとこやのにな」
「その件ではないと思います」

言い切る聖奈に、ハルさんは首を傾げた。そして、そのまま通話ボタンを押す。

「お疲れ様です。え?あぁ、おりますよ。代わります?はい。セナ、代わってって」

ずいっと差し出された携帯と俺の顔で視線を往復させ、聖奈は不安げに表情を曇らせる。嫌な予感が当たらないことを祈りながら、俺は小さく頷いた。

「代わりました。セナです。はい。わかりました。お待ちしてます」

手短に話を終わらせた聖奈が、携帯に向かってはぁ…っと大きく息を吐く。それだけで状況を呑み込めてしまった自分を褒めてやりたい。

「来るって?」
「はい」
「んじゃちょっと気合い入れねーと」
「ですね」

聖奈の祖父、正しく言えばちーちゃんの育ての親の大介さんは、ここに集まる大人達を超えるちーちゃん溺愛者で。ただ、この人達と違うところは、それを超して聖奈を溺愛しているということだ。

俺はまだ一度も会ったことはないけれど、二・三発は覚悟してくれと以前聖奈に言われたことがある。
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