state of LOVE
「え?大介さん来るん?」
「はい。あと10分くらいで着くそうです」
「え゛。何しに来んの、あの人」
「セナが少しお願い事をしたんです」
「またお前は勝手に…」

盛大にため息を吐いたハルさんが、「あっ!」と声を上げて俺の肩を掴んだ。その手が震えている気がするのは…気のせいだと思いたい。

「お前、帰った方がええぞ」
「いや、居ますよ。ちゃんと挨拶したいんで」
「いやいやいやいや!絶対帰った方がええって。俺も千彩も、お前とセナのことまだ言うてへんねんから」
「力一杯否定しますね。自分でちゃんと言いますから」
「殴られんで?下手したらボコボコやで、その自慢の美形」
「別に自慢に思ってないですから平気です」

あまりの慌てぶりにふっと噴き出した俺に、ハルさんは最後の忠告だと言わんばかりに大きく首を振った。

「お前の顔歪んだら、マリにごっつ攻められるんちゃうんか。俺が!」
「俺はメーシーにそっくりなだけでメーシーじゃないんで、その辺は平気だと思いますけど」
「いやー、あいつもちょっとおかしいからな」
「ん?何だって?」

ガンッ!と、にっこりと笑ったメーシーの踵がハルさんの足に落ちる。声にならない悲鳴を発したハルさんは、そのまま蹲ってしまった。

うふふっと笑うメーシーと、その黒いオーラに怯えて小さくなりながらも、何とか足を踏み返そうともがくハルさん。50近くなってこれは如何なものだろう。と、アラフィフ二人のやり合いに脳が痛みを感じ始めた頃だった。


ピンポーン


エントランスのインターフォンが鳴り、パタパタと駆けて行く聖奈と、ケイさんの腕から逃れその後を追う美緒。ハルさんの伸ばした手は、無常にもどちらも掴むことが出来なかった。

「諦めた方が良さそうですよ?」
「俺は知らんぞー。後から文句言うなよ?」
「言いませんよ。多分」

俺はね。と付け足し、一度深呼吸をして姿勢を正す。

大介さんは、聖奈からは「とても厳しい人だ」と聞いている。けれど、「自分の痛みを包んでくれたとても温かい人だ」と。職業差別は良くない。と、ギュッと目を瞑りその時を待った。
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