state of LOVE
「めー!」
「あっ!こら!美緒!」
「めー!めー!」

足元に突進したかと思えば、美緒の小さな手はポカポカと大介さんの足を殴っていて。今は大人しくしてようよ。と、ムキになって大介さんの足を叩く美緒の腕を引いて引き離す。

「美緒」
「めー!」
「わかった。わかったから」

殴るのはダメ。そう教えたものだから、美緒は大介さんに必死になってそれを訴えている。

けれど、それは時と場合によるのだ。まぁ、こんな小さな子供に言ってもわからないだろうから言わないけれど。

「美緒、とーちゃん今大事な話してるから、かーちゃんとこ行ってろ」
「だー」
「だーじゃねーよ。かーちゃんとこ行け、ほら」

よじ登ってきた美緒を下し、聖奈の方へ向けて背を押す。すると、トテトテ…と頼りない足音と共に、美緒は聖奈の膝の上へと辿り着いた。それを最後まで見届け、改めて大介さんに向き直る。


「責任は僕にあります。聖奈に約束を破らせたこと、申し訳ありませんでした」


再び頭を下げながら思う。あぁ、これがマリーの言ってた「面倒な日本の習慣」というやつか、と。

シェイクハンドをして、ハグをして、nice to meet youでは済まない日本の習慣。上だの下だの縦だの横だの、何だかんだと煩わしいから嫌いだ。と、マリーはこのグループ外での関わり合いは嫌う。妹の莉良も同じ。

けれど俺は、意外なことにそれが嫌いではなかった。本当に…誰から見ても「意外だ!」と驚かれるだろうけれど。


「責任を取るとは、まだ学生の身なんで言えません。幸せにするとも約束できません。その代わり、聖奈が僕を愛してくれる限り、痛みも悲しみも寂しさも、聖奈が抱えるものの全てを僕が受け止めて傍に居ます。それが僕の全てです」


一種の「憧れ」と言えば良いのだろうか。こんな風に、ピシッと折り目がついたような「ケジメ」は嫌いじゃない。

ハルさんにもちーちゃんにも、こんな畏まった挨拶はしなかった。ついでに言えばケイさんにも。だから余計に、大介さんにはきちんと言っておきたいと思った。

貴方の代わりに、これからは俺が聖奈を包むから。と、そんな風に取ってくれたら有り難いのだけれど。
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