太陽に届く場所
 「彰くん、手伝うことある?」
 隣の机で定規を拭きながら、木原さんが聞いてきた。
 「じゃあ、これとこれお願いしてもいいかな」
 まだ手をつけてない原稿を木原さんに渡す。
 「オッケー、任せといて」
 木原さんが原稿を受け取ってウインクをした。
 「それ終わったら少し休んでて。木原さんさっきからずっと描き続けてるから」
 「うん、わかった。彰くんも適当なタイミングで休憩してね?」
 「うん。僕も一段落ついたら休むね」
 言いながら磨耗したペン先を交換する。
 部室はカリカリと固いペン先が紙を滑る微かな音に満たされた。
 ぶーん ぶーん
 僕の近くで、携帯のバイブ音が鳴る。
 「あっ、ごめんなさい」
 隣で木原さんがみんなに謝った。鳴ったのは木原さんの携帯だったようだ。
 携帯の画面を見て、木原さんが席を立つ。
 「みらちゃんごめんね、今日はもう帰らなきゃいけないの。お母さんが熱出しちゃったみたいで、すぐに夕飯の買い物に行かないとお父さんの帰りに間に合わなくて……」
 部長の机の前で止まり、木原さんがぺこりと頭を下げた。
 みらちゃんというのは部長の名前だ。部長のフルネームは「草薙御羅(くさなぎみら)」といって、本人いわく「名字も名前もキラキラネーム」なんだそうだ。
 「謝ることはないよ~。お母さん早く良くなるといいねぇ。夕飯の支度がんば~!」
 部長がにっこり笑って木原さんを送り出す。
 「助っ人はいないけどさ、予定より早いペースで原稿進んでるから、みんな頑張ろー!」
 と部長が腕を振り上げると、みんな「おー!」と応じた。
 木原さんがさっき手伝ってくれたお陰で僕の仕事もだいぶ楽になったんだし、もうひと踏ん張り頑張らなきゃね。


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