太陽に届く場所
 「おっ」
 僕の目の前にサッカーボールが飛んできた。
 「すいませーん!」
 女子達の間で大人気の、整った顔立ちのサッカー部のキャプテン君が走ってくる。
 「大丈夫でしたか???」
 サッカー部が練習しているグラウンドから旧校舎の前まで全速力で走ってきたようなのに、キャプテン君は息ひとつ切らしていない。さすが運動部だなぁ。
 「ボールは避けたので大丈夫ですよ。ぶつかって怪我したりはしてないです」
 僕はそう言って、隣に転がっているボールを拾い上げようとした。
 「あ、それ、こっちに蹴ってもらえますか?」
 屈もうとしていたら声を掛けられたので、僕はキャプテン君に向けてボールを蹴る。
 頭の中でのイメージでは、サッカー選手が味方にパスを回すように華麗に力強くボールを蹴ったつもりだったんだけど、ボールはへろへろとキャプテンくんの方へ転がっていった。
 両手にたくさんの荷物を持っていたから上手く蹴れなかったんだ!と言ったら言い訳になってしまう……かな。
 キャプテン君はへろへろ転がっていくボールを足で器用に受け止めて、僕に笑顔を向ける。
 「ありがとうございました!俺、練習戻りますね」
 「頑張ってください」
 キャプテン君の笑顔につられて僕も笑った。
 グラウンドの方へ去っていくキャプテン君の背中を見て、サッカー部は今大会へ向けて猛練習中なのを思い出す。
 今のキャプテンになってから、うちの高校のサッカー部は急速に力をつけてきたらしい。
 毎日すっごく頑張ってるし、キャプテン君たちが勝ったらいいなぁ、なんて思いながら僕は旧校舎の階段を昇った。

 「買い出し終わりましたー」
 手近な机に買い物袋を置きながら、部室の奥の部長に声を掛ける。
 「お疲れ~」
 原稿のチェックをしていた部長が、手に持った原稿から目を上げて微笑んだ。
 「お菓子と画材は棚に、飲み物は冷蔵庫入れときますね」
 「おっけ~」
 部長の了解を得てから、僕は棚や冷蔵庫に買ってきたものをしまう。
これで今回の新刊作業の終わりくらいまでは持つかな。
 僕は新しいインク瓶をひとつ持って、席に戻った。
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