太陽に届く場所
 僕らはひたすら、真っ白な原稿用紙に向かっている。
 ラフを描いて隣に回し、下書きを描いて隣に回し、僕がペン入れをして隣に回し、隣の人が消しゴムをかけて、その隣の2~3人がトーンやベタなどの仕上げ作業をする。
 完成した原稿を部長がチェックし、部長は次の場面の指定をしたり印刷所に電話を掛けて交渉したり。
 みんな、それぞれの仕事に忙しそうだ。
 「お疲れさま!今日のノルマ達成だよん」
 そう言って部長が手に持った完成原稿を机に置くと、部室にいた全員が椅子を引いた。
 「今日はもう解散ね。もうラストスパートだから明日も頑張ろ!」
 おー!とみんなが応え、帰り支度を始める。
 僕もインクやペンを机の引き出しに片付けて、鞄を持って部室を出た。


 「あ」
 教室に忘れ物をしたことに気付いて、階段を降りかけた足を止める。
 僕の教室は、ここの階の渡り廊下を抜けたほうが早く着くのだ。
 僕は迷わず、渡り廊下へ踏み出した。
 早く帰りたいので、走り出す。
 そんなに長くない渡り廊下の終わり付近で、僕は何か変な音を聴いて、立ち止まった。
 ひっく……ひっく……と、誰かがしゃっくりをしたような音がする。
 放課後だし、もう殆どの部活が活動を終えているので、渡り廊下には僕以外の人間の気配はない。
 風が鳴ってすすり泣きのように聴こえるのかな、とも思ったけど、今日はそんなに風の強い日ではなかった。
 僕は耳を澄ませる。
 謎の音は多分渡り廊下のすぐ先の、社会科準備室(大きな地図や地球儀なんかがたくさんある部屋だ)から聞こえてくる……ような気がした。
 僕はお化けや幽霊は信じないが、少し緊張する。
 深呼吸して体を落ち着かせると、僕はゆっくり社会科準備室へ歩き出した。
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