太陽に届く場所
 「あれ?」
 社会科準備室は普段は鍵が掛かっているはずなんだけど、ドアに鍵が刺さったままだ。
 僕は鍵を回して解錠し、薄暗い室内へ入った。
 変な音が聴こえたり、鍵が刺さりっぱなしになっていたり、色々気になる事が多くて、好奇心の赴くまま奥へ進む。
 ひっく……ひっく……
 しゃっくりのような音の招待は、意外と簡単に突き止めることができた。
 いちばん大きな棚の前で、女の子が膝を抱えて泣いていたのだ。
 僕が近づいてきたのに気付いて、女の子が顔を上げる。
 涙で汚れ、目は赤くなっているが、とても可愛い女の子だった。少し、どきっとする。
 「こんな所でどうしたの?」
 僕が問いかけると、
 「私……閉じ込められちゃったの。鍵を掛けられてしまって、扉が開かなくて、出られなくて……」
 鈴が鳴るような可憐な声でこう答えた。
 「そっか、じゃあ何時間くらいここにいたの?」
 品のある大人しいデザインのハンカチで涙を拭って、女の子が腕時計を見る。
 「3時間くらいかな……」
 どうやらこの女の子は、放課後すぐにここへ閉じ込められてしまったらしい。
 「えっ、携帯で助けを呼んだりとかしなかったの?」
 女の子は、はっとした顔になった。
 「私、携帯電話持ってるの忘れてた」
 女の子がそう言って、僕らは顔を見合せ、どちらからともなく笑う。
 「ここにいても仕方ないし、帰ろっか」
 僕は女の子に手を差し出した。
 女の子は少し躊躇って、遠慮がちに僕の手を取って立ち上がる。
 ……意外と、背の高い子だった。

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