太陽に届く場所
見えない気持ち
 僕らの部活にやって来た木原さんは、あっという間に馴染んでしまった。
 「ひなちゃん、これお願い」
 「はーい」
 部長を中心に、女子メンバーとも男子メンバーとも仲良くやっている。
 最初のうちは慣れないつけペンに戸惑っていたようだけど、原稿を一枚仕上げる頃にはもう自由自在に使いこなせるようになっていた。
 しかも、彼女は描くスピードが部の誰よりも速い。
 主に背景の下書き・ペン入れを中心に作業してもらっているけど、トーン貼りや効果線の入れ方等の漫画の基本技術やキャラクターの描き方も身に付けつつある。
 僕も負けてられないな。


 「みんなお疲れさま!今日はいつもより早くノルマクリアだよ」
 ガタガタガタと椅子が鳴る。
 「ひなちゃん、今日もありがとね。ひなちゃん仕事丁寧だから助かるよ~」
 そう言って部長が木原さんの肩をぽんぽん叩いた。
 「ううん、私、漫画はまだまだ描けなくて……もっと役に立てるように頑張るね」
 木原さんがガッツポーズをする。
 部長の隣で笑う木原さんが、なんだか眩しく見えた。
 「頑張るのはいいことなんだけどさ、頑張り過ぎて壊れないように気をつけてねぇ」
 部長がちらっと僕に視線を送った。
 「僕もこの部活始めたばかりのときに、早く周りに追い付きたくてひたすら絵を描いていたんだけど……腱鞘炎になっちゃって、みんなに迷惑かけちゃったんだ。だから木原さんはあんまり頑張りすぎちゃダメだよ。大変だったら僕も手伝うし」
 「ありがとう。でも今は大丈夫だよ」
 「ひなちゃんはあきらんと違ってちゃんと自分のことわかってる子っぽいし大丈夫そうだねぇ。じゃ、あたし部室の鍵返してくるから、先帰ってていいよん」
 鍵をちゃりちゃり鳴らしながら、部長は職員室へ行った。
 「彰くん途中まで帰り道いっしょだよね?今日も一緒に帰ろ?」
 「うん、いいよ」
 最近僕は、よく木原さんと一緒に下校しているのだ。


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