恋の始まりっていつですか?
何時間歩いたやろ?
海から家までそんなに遠くないのに、めっちゃ時間がたっとる気がした。
「小夜、家ついたで?」
小夜を背中からおろして喋りかける。
「音羽ん家がいい」
おとんが迎えてくれやん家に入りたくない。
そう付け足して、俺の手を握った。
「俺の部屋、入んの久しぶりやろ」
中学に上がってから小夜を部屋に入れなくなった俺。
家には来るけど、部屋には絶対入れやんかった。
止まらんくなるから。
「ほら、おいで」
俺は小夜を膝の上に座らせた。
小夜は昔から落ち込むと俺に抱きつく癖があったから、膝にのせて向かい合う形で抱きつかせた。
「なー、音羽」
「んー?」
「何でもない」
「そーか」
落ち込むと俺の名前を呼ぶのも癖。
「小夜」
「んー?」
「泣け」
「…音羽はずるいな」
さっき泣いたばっかやんけって付け足した後、小夜はまた声を殺しながら泣いた。
「アホ。それは泣いとる内に入らんわ。声出せ。どーせ俺とお前しかおらんのやから」
この俺の一言で小夜は大声を上げて泣いた。
まるで、大事にしていたものをなくした子供の様だった。
「…落ちついたか?」
「…ん」
背中を擦ってやった。
「くっ…お、まえ…。顔偉いことになっとんぞ」
指を指して笑う。
すると、小夜も笑った。
「……。おっちゃんに会いにいこか」
「うん」