リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
――…瞬間。
望美は勢いよく立ち上がり、部屋の中へと飛び込んでいく。
鬼の術で跳ばれて、不意打ちを受けないように、狭いところへと。
自分の剣をとりに行くために、部屋の中へと。
決して広くはない庵の中を、望美はすばやく駆ける。
だが、戦いのときとは違い、今の望美が身に纏っているのは町娘が着るような着物。
しかも、寝起きである。
うまくいかない足捌きが、家に上がってきた見知らぬ男との間合いを詰めさせる。
「あっ…!」
部屋の真ん中で望美は躓き、転んだ。
すぐに起き上がろうとするが、すぐさま、その首に冷たい刃が当てられる。
一瞬のうちに、望美の背筋を凍るような戦慄が走った。
久しく感じていなかった思いに、無意識に戦のときの感覚が蘇ってくる。
鈍い光が、望美の目の端に映った。
「…何故、『人』がここにいるんだ…?」
急所へと正確に刃を当てる男が、静かな声で尋ねてくる。
望美は恐怖で心臓が早鐘を打つ中、それでも、落ち着いて声を出す。
「…ここが、私の家だから…。」
「鬼の結界が張られているここが、お前の家だと言うのか?」
胡散臭げな様子のその声に、望美は無理に口元を引き上げた。
「…そうよ。ここは私の家。だから、あなたは出て行ってくれる?」
うつ伏せに倒れながらも、望美は顔だけをゆっくりと男の方へ向けた。
長身の男は、殺気を隠すことなく、望美を見下ろしている。
その瞳は氷のように冷たかった。
「『人』ごときがふざけたことを…。ここにいた鬼はどうした?」
鬼と聞き、男の目的が『白龍の神子』ではないのだと知る。
ならば、目的は、望美の愛しい人。
だけど、今、ここに彼はいない。
そう思うと、望美はそれだけで、少しだけ心に安堵が生まれる。
自分の愛しい人に刃が向いていない分、余裕が出てくる。
「…何でそんな事を聞くの?」
「答えろ。」
静かに怒りを滲ませる男に、望美は不敵な笑みを湛えた。
「それが、人にものを頼むときの態度なの…?」
望美の物言いに、男がクッと刃を首にきつく当てた。
ここで、男が刀を少しでも引いたら、望美の命は簡単に失われるだろう。
だが、そんな状況でも、動揺することのない望美を、男は眉を寄せ、睨みつける。
「…貴様、死にたいのか?」
それでも、望美は笑みを崩さずに、青い瞳を真っ直ぐに見つめ続けた。
「それって、昼寝を楽しんでいた私に、聞いてる?」
どこか挑発するように言えば、男がカッと怒気をあらわにする。
「女。もう一度、聞く。リズヴァーンは何処だ!」
男が望美の大好きな人の名を口にする。
その一言を聞き、望美は満足げに笑みを深めた。
望美は勢いよく立ち上がり、部屋の中へと飛び込んでいく。
鬼の術で跳ばれて、不意打ちを受けないように、狭いところへと。
自分の剣をとりに行くために、部屋の中へと。
決して広くはない庵の中を、望美はすばやく駆ける。
だが、戦いのときとは違い、今の望美が身に纏っているのは町娘が着るような着物。
しかも、寝起きである。
うまくいかない足捌きが、家に上がってきた見知らぬ男との間合いを詰めさせる。
「あっ…!」
部屋の真ん中で望美は躓き、転んだ。
すぐに起き上がろうとするが、すぐさま、その首に冷たい刃が当てられる。
一瞬のうちに、望美の背筋を凍るような戦慄が走った。
久しく感じていなかった思いに、無意識に戦のときの感覚が蘇ってくる。
鈍い光が、望美の目の端に映った。
「…何故、『人』がここにいるんだ…?」
急所へと正確に刃を当てる男が、静かな声で尋ねてくる。
望美は恐怖で心臓が早鐘を打つ中、それでも、落ち着いて声を出す。
「…ここが、私の家だから…。」
「鬼の結界が張られているここが、お前の家だと言うのか?」
胡散臭げな様子のその声に、望美は無理に口元を引き上げた。
「…そうよ。ここは私の家。だから、あなたは出て行ってくれる?」
うつ伏せに倒れながらも、望美は顔だけをゆっくりと男の方へ向けた。
長身の男は、殺気を隠すことなく、望美を見下ろしている。
その瞳は氷のように冷たかった。
「『人』ごときがふざけたことを…。ここにいた鬼はどうした?」
鬼と聞き、男の目的が『白龍の神子』ではないのだと知る。
ならば、目的は、望美の愛しい人。
だけど、今、ここに彼はいない。
そう思うと、望美はそれだけで、少しだけ心に安堵が生まれる。
自分の愛しい人に刃が向いていない分、余裕が出てくる。
「…何でそんな事を聞くの?」
「答えろ。」
静かに怒りを滲ませる男に、望美は不敵な笑みを湛えた。
「それが、人にものを頼むときの態度なの…?」
望美の物言いに、男がクッと刃を首にきつく当てた。
ここで、男が刀を少しでも引いたら、望美の命は簡単に失われるだろう。
だが、そんな状況でも、動揺することのない望美を、男は眉を寄せ、睨みつける。
「…貴様、死にたいのか?」
それでも、望美は笑みを崩さずに、青い瞳を真っ直ぐに見つめ続けた。
「それって、昼寝を楽しんでいた私に、聞いてる?」
どこか挑発するように言えば、男がカッと怒気をあらわにする。
「女。もう一度、聞く。リズヴァーンは何処だ!」
男が望美の大好きな人の名を口にする。
その一言を聞き、望美は満足げに笑みを深めた。