リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
「ドコも痛くないし、弁慶さんトコだけは行きたくないです!」

「ダメだ。食欲もないのだ。これ以上、お前に何か起きてからでは遅すぎる」

縋るような目で訴えても、それでも、リズヴァーンは真顔できっぱりと、言い切った。

望美に何かがある前に、先手を打つ。

戦いの最中でも、運命を繰り返す中でも、すべてが終わった今でも。

それは、リズヴァーンの信念とも言えよう。

それが、あの「過保護」に繋がるんだと気付いていても、こればかりは、望美だって譲れない。

あんな、生き物の飲むものとは到底、思えない代物を、むざむざと飲まされるわけにはいかない。

(ってか。人体実験にされるのだけは、イヤ~~~っ!)

「え、ええっと、これから、頑張って食べるようにしますから!お願いです~~~っ!」

必死に、それはもう、懸命に。

それこそ、戦いのあと、あの楽園でリズヴァーンを説得したとき並に、望美は訴える。

だが、リズヴァーンも、一度決めたことを覆そうとはしない。

「調子も悪いのだろう?観念しなさい」

「そんなもんっ、出来ません!」

と。

いくら縋ってまで言ったとしても、到底、望美がリズヴァーンに敵うわけもなく。

その晩、必死にご飯を全部食べたのに、すぐに、また吐いてしまったのもあって。

トドメのように、朝方、ご飯を食べる前から、吐いてしまったから。

――…強制的に、望美はリズヴァーンによって、五条に連れて行かれた。


薬草の匂いが充満した部屋に、突然、隠行で現れた二人を見ても、微塵も驚いた様子を見せずに。

「……で。今日はどうしましたか?」

ニッコリと笑って、弁慶が出迎える。

ひとり、静かにお茶をすすっていたにも、関わらず、だ。

余程、肝が据わっているのか、神経のどっかが壊れている証拠だろう。

だが、今、ココでそれを突っ込めるような人はいない。

きっと、熊野か六波羅にでも、いるんだと、思う。

それはさておき。

「望美の体調がおかしい。診てはもらえないか?」

いつものように、勝手に弁慶の家へと上がりこんだリズヴァーンが、悪びれる様子も見せずに、穏やかな口調で言う。

そして、人身御供のように、望美をすっと、弁慶の前に差し出した。

「だから!なんでもないです!大丈夫です!私は元気ですっ!!!」

そう、望美は叫ぶのだけど。

リズヴァーンの腕は、望美の腰へと回され、逃げられないようにガッチリと抱いている。

どこにコツがあるのかわからないが。

たかが腕一本で動きを封じられている望美は、思い切り声を荒げた。

「は~な~し~て~!もう、お家へ帰る~~~ッ!!!」

注射を嫌がる子供のように、必死な形相で。

力の限り身を捩りながら、ただ、薬湯を飲みたくない一心で、望美はその腕から逃げ出そうとしていた。

< 37 / 99 >

この作品をシェア

pagetop