リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
「ダメだ。昨日は昼と夜、二回嘔吐し、今朝も、吐いた」

「でも、本当に、熱もないし、何処も痛くないんですってばっ!」

「ならば、診てもらったからといって、問題はなかろう」

「ありますっ!!!先生は、私が弁慶さんの人体実験になってもいいんですか!?」

「お前の具合が悪いのは事実。調合してもらいなさい」

「だ~か~らっ!あの薬湯がイヤなんですってば~~!!!あれは人の飲むもんじゃないです!」

「問題ない。私が飲ませる」

「って、違います!誰に飲まされても、嫌なものはイヤですっ!」

「それで、具合の悪さも治るのだ。覚悟を決めなさい」

「むざむざ弁慶さんの餌食になるなら、このままでいいです!だから、お家に帰るの~~ッ!」

そこから逃げたい望美は、よりにもよって弁慶の前で、素直に暴言を吐き続けた。

目の前で行われる、痴話げんかなのか、親子喧嘩なのか。

それとも、自分にケンカを売りに来たのか。

さっぱりわからない話を聞いていた弁慶が、いい加減にしろとばかりに、ニッコリと笑みを深めた。

「とりあえず、折角、朝っぱらから来て頂いたのです。少しだけ、お話でもしましょうか。……望美さん」

至極、穏やかな声で。

当然のように、名指しで呼ばれて。

文句が言いようもないほどの、すばらしい笑みを向けられては――…。

望美に、もはや紡ぐ言葉などない。

いや、弁慶相手に、怖くて言えるハズもない。

身の程を知っている望美は、仕方なく、ピタリと暴れるのをやめた。

そして、しかられる子供のように、望美は正座をした膝の上で拳をぎゅっと握る。

ただし、横目でリズヴァーンを睨みつけながら、なのだが。

「では、いつから体調がよろしくないのですか?」

まっとうな医者のように、弁慶が穏やかに尋ねてくる。

「………10日ぐらい前から」

「それは……。大変でしたね」

苦々しい顔で望美が、それでも素直に答えると、何故か、妙に楽しそうに弁慶が笑んだ。

それはもう、望美の体調が悪いなんて面白い!とでも、言わんばかりに。

この状態で、目を輝かせる弁慶を見ると、望美には、嫌な予感しかしない。

先に見えるは、人体実験か。

それとも、人の飲み物とは思えない色をした液体(?)か。

最悪な二者択一が、頭に浮かんだ。

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