リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
きっぱりと言われた言葉に、リズヴァーンが眉を寄せ、それでも、ゆるりと腰を落ち着ける。

場所と、場合と、状況を思い出したのだろう。

望美がぷいっと、リズヴァーンから顔を背けると、弁慶とばっちり目が合った。

「望美さん。痛むところは、本当にないんですね?」

弁慶が、望美に視線を向けたときの瞳は、思いのほか真剣なものだった。

笑みを浮かべたままなのだが、真面目に問われていると気付いた望美は、苛立つことなく、素直に肯く。

「ものすごく眠くなるぐらいで、他には、別になんともないんです」

真摯に心配してくれる人には、望美だって、正直になる。

異常なほど過保護な、愛おしい人以外には。

「寝不足、ということは、ありませんか?」

「ん~。でも、トータルしても、前よりずっと寝てますよ?」

前だったら、夜、寝かせてもらえなくても、昼前には起きていたし。

今は、それでも寝たりないとばかりに、昼過ぎから夕方近くまで眠っているのだから。

寝不足ってことは、ありえないだろう。

「では、精神的につらいことは?」

穏やかに尋ねられて、望美は小さく小首を傾げる。

「…………今?」

本当に、正直に言えば、弁慶のこめかみが、ピクリと動いた気がして。

(ヤバっ!正直すぎた!)

それに気付いて、望美は慌てて、言い直す。

「え、え…っと、それは、ないです」

鞍馬の生活を思い出しながら、望美が呟く。

「苦しいこととかも、まったく微塵もないし。先生と一緒だから、何をしていても、毎日、すごく楽しいし……」

このとき、ポロッと、ノロケのようなことを言ったことに、望美は気付いていない。

ついでに言えば。

「そう考えると、私ってものすごく、しあわせもん、なんですよねぇ……」

たまたま零れた独り言の、小さな囁き一つで、リズヴァーンの機嫌がもとに戻ったコトにも、気付かない。

でも、そんな二人を目にして、弁慶は何かに思い当たったのか、ふっと、笑みを浮かべた。

「そうですか……。では、最後に月の穢れが来たのは、いつですか?」

聞きなれない、「月の穢れ」と言う言葉に、わけもわからず、望美はきょとんとする。

が。

「――……ッ!」

隣では、驚愕したようにリズヴァーンが、目を見開いた。

その姿に、してやったりとばかりに、弁慶がニッコリと笑う。

「リズ先生、どうでしょう?思い当たるコトはあると、思うのですが」

どこかからかうような響きの声で、問いかけるのだが……。

「――…………」

弁慶の言葉が、余程、衝撃的だったのか。

リズヴァーンが静かに、顔を背け、ゆるりと、口元を押さえて……。

――…何故か、一人、うなだれた。

なのに、追い討ちをかけるかの如く、弁慶が畳み掛けるように、言葉を紡ぐ。

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