リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
「――…私だ。だが、その私を愛したのは、お前だ」

報いたはずの矢は、気づけば、真っ向から返された。

見事に図星を、おもいっきり突かれて、望美は顔を真っ赤に染め上げる。

それを、愛おしそうな瞳で見ているリズヴァーンは、優しく目元をほころばせた。

「私は如何なるときも、お前を案じている。覚えておきなさい」

優しく囁いて、しかも、今日初めての優しい笑みに、望美は照れたようにはにかむものの。

それでも、口を尖らせる。
「――…私も同じ、ですからね。忘れないでください」

赤くなる顔を隠すように俯きながらも、望美は小さく呟いて、繋いだ手に力を込めた。

いつでも、どんなときでも。

(この手だけは、絶対に離したくないな)

不意に、そんなコトを思った。


「あら、望美。いらっしゃい」

通された部屋で、出された白湯を飲んでいると、御簾が上がり、朔が顔を覗かせる。

その姿に、軽く手を上げて、望美はうれしそうに笑った。

「いきなり来て、ゴメンね~。お邪魔してま~す」

おどけたように挨拶をすると、朔が何かを言う前に、リズヴァーンがおもむろに口を開く。

「朔、黒龍は何処だ?」

「え?庭にいると思いますけど……?」

「そうか。ならば、望美を頼む」

それだけ言って、リズヴァーンは音も立てずに立ち上がり、そのまま、部屋から出て行った。

リズヴァーンのいきなりの行動は、今更なので、朔が驚くことも、戸惑うコトもない。
慣れとは、恐ろしいものだ。

だが、リズヴァーンの背を見送った朔は、不思議そうな顔をして、望美を窺った。

「リズ先生はどうなさったの?」

「ん~、いろんなコトがあったっていうか、これからあるっていうか……」

目の前に腰を下ろした朔に、何をどう言っていいのやらと、望美は苦笑いを零しながらも曖昧に返事をする。

言いづらそうな望美の様子に、朔は小さく笑った。

「あら、聞いてはいけないコトだったかしら?」

「ううん。そんなコトはないんだケド。どっから話したらいいのか……」

困ったように、白湯を傾ける望美に、朔は微笑みながらも、話しやすいように、会話の糸口を探す。

「でも、リズ先生が黒龍に用事なんて、珍しいわね」

「話の流れ上、ってトコかな?聞きたいことがあるみたいで……」

まさか、弁慶の差し金だと言い切るわけにもいかず、望美は言葉を濁す。

それでも、朔はきょとんとしながら、望美を見つめた。

「聞きたいこと?リズ先生が、黒龍に?」

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