リズ×神子2-お前がそう望むのであれば-
どれだけ望美が、病気や怪我で弁慶の元へ行くのを嫌がっているのか。

それを知っている朔は、小さく笑った。

「おかげで「やや」がいると、わかったのでしょう?今回は感謝すべきだわ」

「感謝するのは、あの薬湯を飲まずに済んだことだよ。それだけはマジで感謝する」

心の底からうれしそうに言う望美に、朔が苦笑を浮かべる。

「もう、仕方がない子ね。でも、今の具合はどう?」

「うん、大丈夫。朔と一緒だと、眠気も覚めちゃうし、ね」

「でも、何かあったら、すぐに言ってちょうだい。何でもするわ」

目を輝かせて言う朔に、望美はうれしそうに肯いて、笑んだ。

「私だって、こんなにうれしいのですもの。さぞかし、リズ先生も喜ばれたのではなくて? 」

静かに望美の手を離し、暴走しそうな自分を落ち着かせるためか。

一息つくと、白湯に手を伸ばしながら、朔はうれしそうに目元をほころばせた。

でも、望美は困ったように、曖昧な笑みを零す。

「ん~。どうだろう。別に、そんな風には見えなかったけど」

浮かぶのは、口元を押さえたままうなだれて、ピクリとも動かないリズヴァーン。

と。

――…心底、楽しそうに、人で遊びまくった弁慶の姿。

そのときを思い出しつつ。

なんとなく、凹みたくなるのは、何故だろう――…?

「あら、そうなの?」

そんな望美に気付いたのか、朔が明るい声を出しながら、その顔を窺う。

望美は朔を見つめて、力なく笑った。

「うん。衝撃はものすごく、受けてたみたいだけど。……あの先生が、固まってたし」

その一言で。

リズヴァーンの、「めちゃくちゃ望美を溺愛している」普段の姿と。

仲間に囲まれながら、穏やかに佇む姿しか、もはや、想像のつかない朔は、一瞬、口ごもる。

「それは――…。リズ先生も、余程の驚きだったようね……」

「そうなんだけど、その後も、……あんまり嬉しそうには、見えなかったなぁ」

そのときを振り返ると、微かに望美の胸が、ツキリと痛んだ。

だって、先生は、赤ちゃんのことでは、まったく笑ってくれなかったから。
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