愛の囁きを[短篇]
私の顔を見て大きく見開く壱の目。
「…お前、馬鹿だろ?」
「な…」
そして、少しとられていた私と壱との距離が一瞬にしてなくなった。
再び閉じ込められる壱の腕の中。
私の涙が壱の服を濡らす。
ぎゅっと抱きしめられ
私の頭を優しく撫でる。
「い、ち。」
「本当、馬鹿。なんで気付かねぇの?俺の気持ち。…俺が誰にでもこんなことすると思った?抱きしめると思った?」
頭の上で聞こえる声は
何故か少し震えていた。
「穂波以外の女、抱いてると思った?」
「っ…」
想像もしたくない。
壱が私以外の女の子の隣を歩き、笑っている姿。
それを考えてだけで更に涙が溢れた。
嫌だよ…
そんなの、嫌。
「穂波。あの日、お前を抱いたのは、今お前を抱きしめてるのは…お前が好きだからに決まってんだろ?」
優しく、少し力のこもった声で
確かにそう壱は呟いた。
私が…好き?
壱が、私を好き?
「…あの日。お前が余りにも無防備だったから…。悪かったって思ったんだ。勝手にお前に触れて、抱いて。」
私を抱きしめる腕に力が入る。
まるで逃がさないように。
まるでもう離さない、そう言うように。
「…昔から、ずっと前から俺はお前しか見てねぇよ。穂波、穂波だけ。」
「ほ、んとに?」
途切れ途切れにしか話せない私の声をしっかりと聞き取り、壱が言う。
「本当。じゃなきゃ、毎朝、遅刻寸前まで待ってると思うか?18年間、同じ学校通ってるのは何でか考えてみろよ。」