君に逢えたら

ゆきは駈けだした。

「元崎…!あの、私…」

ゆきは息を切らし、額に汗をうかべていた。

「どうしたんだよ?」

「私…。私…違うの…」

「え?何が…?」

「私…」

ゆきは元崎を見つめた。

伝えたいことはたくさんあるのに言葉が出てこない。

「川島?」

元崎の顔を見るとゆきは急に怖くなった。

今さら迷惑かもしれない…。

でも、それでもいい。

伝えなくちゃ。

「会いたかったの。私。お詫びじゃない。元崎に会いたいから行ったの」

元崎は驚いた顔でゆきを見た。

「私…好きなの。元崎が。」

ゆきはまっすぐに元崎を見つめた。

言った。
自分の気持ちは言った。

「…本当に…?」

恐る恐ると言う感じで元崎は尋ねた。

あぁ私、信用されてない。

ゆきはそう思った。

「本当だよ。嘘じゃない!」

どうすれば伝わるのだろうか。

気持ちを言葉にしてもダメなのか。
それなら…

ゆきは息をすうっと吸い込み、そして…

大きな声で歌い出した。

元崎がいつも歌っていた、あのへたくそな歌を。

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