とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
それから暫くして便所に立った俺が見たモノは、芸能記者なら大喜び、俺としては顔面蒼白な光景だった。

「ねぇ、ホントに何もしないのぉ?」
「しねぇって。こんなトコでどぉやってすんの?」
「えぇー。ちょっと残念カモ」
「そんなのあとあと。取り敢えず腹ごしらえ?みたいなさ」

いかにも流行りモノが好きそうな女を腕に絡ませて向かって来るのは、同じグループのサキこと岬和也。

…って、オイ!

「あれぇ?リキじゃん。こんなトコで何やってんの?」
「イヤ…オイ…」
「ん?何だよ」
「ソレ、何?」
「ソレって…女?」

女ってどうゆう意味の…?なんて質問は、サキの腕に絡まった女の目線が饒舌に語ってた。嗚呼、神様。これは俺が1番望んでいなかった最悪の事態デス。

「1人?」
「イヤ、マキと一緒」
「マキと?珍しいコトもあるもんだ。奥の個室っしょ?俺も行っちゃお」

自分で「マキとメシでも行っといで」なんて言ったコトは、もうこのホロ酔い加減の男の頭には無いとみた。残念だよ、マジで。

必死に引き止めようとする俺の腕を振り払い襖を開けたサキは、案の定硬直状態で。
恐る恐る中を覗き込むと、ご機嫌なマキと優奈が携帯の見せ合いっこなんかして楽しんでる最中だった。

「うわぁ…何でいるかな」
「オメェがマキとメシ行ってこいっつったって言ってたケド」
「…俺そんなコト言ったっけかな」
「言ったみてぇだぜ」

折角コソコソ会話して何事も無かったかのように襖を閉めようとした俺達のそんな努力を、サキの腕に絡まったままだった女がブチ壊してくれた。


「あー!マキ君だぁ!」


確かに、この女は優希と張るくれぇミーハーそうで。それはそれで個人の自由なんだケドも、もう少し空気を読んでくれれば有難かったカモしれない。

つーか、読め!


「おっ。サキじゃん」
「和也?」


同時に振り向いた2人に、俺達2人は引き攣った笑顔で手を振る。その笑顔で察したマキはニヤリとイヤぁな笑みで、何も察することの出来ない優奈はニッコリと微笑んで返す。
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