とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
早めに仕事が終わり、普段より少しだけ大きめの荷物を抱えて電車に乗った。新しくマンションを借りて半年。もう駅からの道順にもだいぶ慣れた。そして、毎回立ち寄るこの花屋さんにも。
「こんにちわ」
「ん?おう!いつものニーチャンじゃねぇか。久々だな」
「そうなんすよ。仕事詰まってて帰れなくて」
「大変だなぁ、芸能人ってのも」
そう言っておじさんはコスモスを3輪程手早くまとめて俺の前に差し出した。
「早咲きだけどよ、彼女に持って帰ってやんな」
「え?いいんすか?」
「おう。こないだサイン貰ったしな」
新聞紙にくるまれたそれを遠慮する俺の腕の中に半ば強制的に押し込み、おじさんは奥の部屋に続く扉を指した。そう言えば、こないだあの扉から中学生だっていう娘さんが飛び出してきて驚いたっけ…と頭を下げてそれを受け取る。
「彼女さんは元気かい?」
「元気っすよ。久々に会えるんで楽しみなんすよ」
「そりゃ早く帰ってやんねぇとな。引き留めて悪かったな」
「いや、ありがとうございます、これ」
抱えた荷物の上にポンと貰った花束を置き、手を振って店を後にする。別に特別花が好きというわけでもないけれど、早く仕事が終わった日は必ずこの店に立ち寄る。たった半年の間にそんな習慣が出来た。
「喜ぶんじゃねぇの?これ。惚れ直されちゃったりしてなー」
まだ色付く前の銀杏並木の通りを抜けながら、怪しい半笑いの顔で独り言なんか呟いたり。さすがに自分でも恥ずかしくなって頭を掻きながら俯くと、あと数100mになったマンションまで足を急がせた。鍵を取り出してオートロックを開けるのも、すれ違う住人と挨拶を交すのも慣れてきた。
「こんにちわ」
「ん?おう!いつものニーチャンじゃねぇか。久々だな」
「そうなんすよ。仕事詰まってて帰れなくて」
「大変だなぁ、芸能人ってのも」
そう言っておじさんはコスモスを3輪程手早くまとめて俺の前に差し出した。
「早咲きだけどよ、彼女に持って帰ってやんな」
「え?いいんすか?」
「おう。こないだサイン貰ったしな」
新聞紙にくるまれたそれを遠慮する俺の腕の中に半ば強制的に押し込み、おじさんは奥の部屋に続く扉を指した。そう言えば、こないだあの扉から中学生だっていう娘さんが飛び出してきて驚いたっけ…と頭を下げてそれを受け取る。
「彼女さんは元気かい?」
「元気っすよ。久々に会えるんで楽しみなんすよ」
「そりゃ早く帰ってやんねぇとな。引き留めて悪かったな」
「いや、ありがとうございます、これ」
抱えた荷物の上にポンと貰った花束を置き、手を振って店を後にする。別に特別花が好きというわけでもないけれど、早く仕事が終わった日は必ずこの店に立ち寄る。たった半年の間にそんな習慣が出来た。
「喜ぶんじゃねぇの?これ。惚れ直されちゃったりしてなー」
まだ色付く前の銀杏並木の通りを抜けながら、怪しい半笑いの顔で独り言なんか呟いたり。さすがに自分でも恥ずかしくなって頭を掻きながら俯くと、あと数100mになったマンションまで足を急がせた。鍵を取り出してオートロックを開けるのも、すれ違う住人と挨拶を交すのも慣れてきた。