とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
「ねぇ、洗濯機回していい?」
「後で回すから持って帰って来たの入れといてー」
「はぁい」

自分だって仕事で疲れてるくせに。と小さくツッコミながら、荷物の中から取り出した汚れ物を洗濯機に入れたついでに洗剤と柔軟剤をセットしてスタートボタンを押した。

いつ帰ってきても家の中は綺麗に片付いてるし、洗濯物だって滅多に溜めてあることはない。いつそんなことしてんだろ。そんな時間あるの?って思うから、気付いたことは手伝うようにしている。それが一緒に暮らすための最低限のルールだって。

「やっぱり回した」
「えー。良いって言ったのに」
「だってほら、美佳も仕事で疲れてるっしょ?」
「こないだもうそう言って回して、白のTシャツが水色になって嘆いてたじゃん」
「大丈夫。今回は」

こないだは起きてすぐにしたからいけなかったんだよ。と、照れ隠しに抱き寄せた。たまにはそうゆう事もあるさ。

卵の焼ける音と、帰った時からエンドレスで聞こえてくる歌声が重なり、少し耳障りな感じがする。確かに俺は歌うことは好きだけれど、こうやって自分の歌声を家の中で聴かされると仕事場での顔に戻りそうで嫌だ。

「CD、止めていい?」
「あっ、ごめん」

慌てて身を乗り出してカウンターの上に置かれていたリモコンを取ろうとする姿に、少しひやっとした。

美佳の悪い癖は、頑張り過ぎるところとすぐに周りが見えなくなるところ。今だってほら、コンロから身を乗り出せば危ないにも関わらず、俺の一言でもう意識はリモコンに集中してしまっているし。

気を使って何事も俺を優先してくれるのは嬉しいけれど、危ないことだけはしないで欲しい。と、そのリモコンに先に手が到達した俺は小さなため息をついて電源を落とした。

「ごめんね」
「俺が居なくてそんなに寂しかったんですかー?美佳センセー」
「…お黙り」

顔を真っ赤にしながらそんなことを言ったって、何の効力も無い。出来上がったオムライスをテーブルに運びながらからかって遊んでいると、ふと何かに違和感を感じた。家具の位置は変わりない、カーテンの色だって。けれど、何かに違和感を感じる。泊まりの仕事に出る前はいつもと同じだったはずなのに。

「ねぇ、この家何か変わった?」

数日前よりも心なしか温かな感じさえする。どちらかと言えば、今の方が居心地が良い。何が変わったのだろう。と、辺りを見回しても特別変わった感じはしなかった。
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