とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
カーテンの隙間から差し込む朝日に重い瞼を開き、腕の中の温もりを確認する。夏だろうが冬だろうが、この瞬間がなきゃ1日が始まる気がしない。

どんなに夜遅く帰って来ても、俺は必ず腕の中でスヤスヤ気持ち良さそうに眠っているこいつよりは早く目覚める。1年半足らずでそんな習慣が身についた。


こいつ…また口開けて寝てら。よだれ垂らすなよ。


夢の住人を起こさないようにそっと腕を引き抜いて起き上がり、あまりの寒さに身を縮めてまた布団へと潜り込む。

掛け布団を掴みながら暫くは夢の世界に戻ろうと闘ってはみたものの、どうにもこうにも寒さには勝てそうもない。渋々瞬間冷凍機の様に冷えた空気に片手を晒し、ベッドの下に脱ぎ散らかしていたスウェットを掻き集めて幸せ地帯へ引き込んだ。

「ん…冷た…」
「あっ、悪りぃ」

眉間にグッと皺を寄席せながらも、彼女はまだ巨大な勢力を持つ睡魔サンと闘う気にはなれないらしく、もそもそと動いて身を縮め俺に擦り寄って来る。その姿が何だか甘える猫みたいで。無性に抱き締めたくなって抱え込むと、重く閉じていた瞼が一瞬開いて…また閉じた。

「お前いつまで寝んの?」
「ん…もぉちょっと」
「俺今日オフなんだけど?」
「あっ…そ」

(あり得ねぇ…オフだっつってんじゃん。忙しいんだよ?俺。昨日だって仕事終わったの夜中だったのに!)

いくら心の中で不平不満を並べようが、夢の世界に逆戻りしてしまった彼女に届くはずは無くて。少し膨れ気味に腕の中の規則正しい寝息を聞きながら、はぁっとため息を1つついて諦めた。

そう、人間諦めも必要だ。


程好く温まったスウェットを布団の中で着込み、寒さに身を縮めながら寝室を後にする。

別にオフの日にこんなに早起きして活動する必要など無いのだけれど、目が覚めてしまったものは仕方が無い。

あのままあの幸せ地帯に居続ければ、再び夢の世界へ旅立ってしまうことは必至。うだうだとベッドの中で1日を過ごすのは毎回のことなので、たまには1人でのんびり過ごすのも良い。どうせベッドの中で猫の様に丸まる彼女は、オフなのに早起きをして活動している俺を放って昼近くまで夢の世界からは帰っては来ないだろうから。


夢の世界のお友達より、現実世界の恋人を大切にしてほしい。
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