とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
寝室を出て、一目散に目指すのはソファーの前のガラステーブルだ。そこに、几帳面な彼女がリビングで使うリモコンの全てを整理しているプラスチックのカゴがある。

この寒い中、暖房無しではとてもじゃないけどやっていけない。小走りに駆け寄り、目的の物を手にしてこれから訪れるだろう幸福感に少しだけ頬を緩ませた。ガス管を差し込み、ガスファンヒーターも準備完了。後はオレンジ色のスイッチを押すのみとなったところで、一旦停止してふと我に返る。


「これつけたらエアコンいらねぇじゃん」


そう、俺は地球に優しい男。意外とエコロジストなのだ。

いくら寒いからといって、エアコンとガスファンヒーターの両立は環境に良くない。そう思い直し、オレンジのボタンを押すと同時にリモコンを籠の中へと戻した。

じんわりと広がって行くだろう暖かい空気をまん前で遮りながら、両手を擦って冷えた手を温める。

ホント…ね、TVじゃこんな姿見せられません。

こんな姿を目にすることが出来るのは、身内の特権ともいえるべきもの。ただ、その特権を持った身内と呼ばれるだろう人物は、未だ夢の中で楽しくお友達のうさぎさんと追いかけっこでもしてることでしょうが。


「コーヒー飲みてぇ…けど動きたくねぇ…」


体内が欲する温もりと、表面が欲する温もり。どちらも俺にとっては必要なのだけれど、ここからキッチンへ移動すればまた極寒の地。少し悩んで、ガラステーブルの上に置きっぱなしだった携帯を手に取った。

漸く温まって自由に動くようになった指先で携帯を操作し、メモリーNo.000を呼び出してコールする。何秒か遅れで、寝室から機械音が聞こえて来る。そう、俺の携帯のメモリーNo.000は今夢の世界へ旅行中のベッドの中の彼女だ。
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