とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
「…バカ」
待受画面や机の上の写真を見て文句を言うのはもうたくさんだ。と、寝息を立てている永久を揺すってみる。眠そうに目を擦って顔を上げた永久は、あたしの顔を見上げてガバッと勢い良く起き上がった。
「何っ!?何泣いてんの」
「バカとわぁ」
「イヤ、名前間違ってっし」
「何で…何で電話出ないのよぉ」
「はっ?」
「もぉー!」
力尽きて突っ伏したあたしの頭を撫でながら、バカでも心優しい妹の彼氏はその心情を察してヨシヨシと頭を撫でてくれる。残念ながらあたしの彼氏は、普段無駄に優しいくせにそうゆうところの配慮が欠けているのだ。
「サキ?」
「出ないし、掛け直してもこない。メールも無い。音信不通」
「マジで?俺昨日会ったよ」
「意味解んない。別れたいなら言えば良いのに」
「イヤ、絶対それは無い。俺電話してやるから」
慌てて携帯を取り出したと同時に、聞き慣れた声が未だ耳に慣れないメロディーを歌い始めた。
「何、それ」
「良いっしょ?優希が歌ってくれた」
「…バカじゃん、あんた達」
メロディーは永久が歌っている曲だけれど、歌声は妹。こんなところで妹の生歌を披露されるとは思ってもみなかった。バカップルを甘く見すぎていた。と、後悔した。
「サキだよ、着信」
「はっ?」
「出れば?」
「いらない」
携帯を押し返し、あたしは再び突っ伏する。何なんだろう、これは。あたしの電話にはコールバックさえしないで、こんな奴には自ら電話して…こんな…こんな自分の彼女の歌声を着歌にしてるような重度の変態なのに!
「はーい。サキぃ?」
『おぅ。今大丈夫?』
「大丈夫だけど…。サキのが大丈夫じゃないと思うよ」
『何ソレ』
「いや、こっちの話」
ちらりとあたしを見遣り、バカとわはにやりと笑みを浮かべる。いつも思うけれど、ホントに嫌な笑顔だ。可愛いなんてとんでもない。あたしには悪魔にしか見えないよ!
『大学何時くらいに終わるんだっけ?マキと一緒なんだけど、今近くに居んだよ。スタジオまで送ってくれるって』
「もう帰っても平気なんだけどねー」
『マジ?じゃ、門の前に車停めっから』
「オッケー。あっ、1人一緒なんだけど大丈夫?」
『女?』
「うん。まぁね」
『俺らは良いけど三村にバレたら知らねぇからな』
「あぁ、それは大丈夫」
『じゃぁすぐ行くから』
「ヨロシクー」
カタリと携帯をテーブルの上に置く音と、小さな氷がグラスとぶつかる音が混ざる。
泣きたいけれど、これ以上泣きたくはない。
そんな、何とも表現し難い複雑な想い。
待受画面や机の上の写真を見て文句を言うのはもうたくさんだ。と、寝息を立てている永久を揺すってみる。眠そうに目を擦って顔を上げた永久は、あたしの顔を見上げてガバッと勢い良く起き上がった。
「何っ!?何泣いてんの」
「バカとわぁ」
「イヤ、名前間違ってっし」
「何で…何で電話出ないのよぉ」
「はっ?」
「もぉー!」
力尽きて突っ伏したあたしの頭を撫でながら、バカでも心優しい妹の彼氏はその心情を察してヨシヨシと頭を撫でてくれる。残念ながらあたしの彼氏は、普段無駄に優しいくせにそうゆうところの配慮が欠けているのだ。
「サキ?」
「出ないし、掛け直してもこない。メールも無い。音信不通」
「マジで?俺昨日会ったよ」
「意味解んない。別れたいなら言えば良いのに」
「イヤ、絶対それは無い。俺電話してやるから」
慌てて携帯を取り出したと同時に、聞き慣れた声が未だ耳に慣れないメロディーを歌い始めた。
「何、それ」
「良いっしょ?優希が歌ってくれた」
「…バカじゃん、あんた達」
メロディーは永久が歌っている曲だけれど、歌声は妹。こんなところで妹の生歌を披露されるとは思ってもみなかった。バカップルを甘く見すぎていた。と、後悔した。
「サキだよ、着信」
「はっ?」
「出れば?」
「いらない」
携帯を押し返し、あたしは再び突っ伏する。何なんだろう、これは。あたしの電話にはコールバックさえしないで、こんな奴には自ら電話して…こんな…こんな自分の彼女の歌声を着歌にしてるような重度の変態なのに!
「はーい。サキぃ?」
『おぅ。今大丈夫?』
「大丈夫だけど…。サキのが大丈夫じゃないと思うよ」
『何ソレ』
「いや、こっちの話」
ちらりとあたしを見遣り、バカとわはにやりと笑みを浮かべる。いつも思うけれど、ホントに嫌な笑顔だ。可愛いなんてとんでもない。あたしには悪魔にしか見えないよ!
『大学何時くらいに終わるんだっけ?マキと一緒なんだけど、今近くに居んだよ。スタジオまで送ってくれるって』
「もう帰っても平気なんだけどねー」
『マジ?じゃ、門の前に車停めっから』
「オッケー。あっ、1人一緒なんだけど大丈夫?」
『女?』
「うん。まぁね」
『俺らは良いけど三村にバレたら知らねぇからな』
「あぁ、それは大丈夫」
『じゃぁすぐ行くから』
「ヨロシクー」
カタリと携帯をテーブルの上に置く音と、小さな氷がグラスとぶつかる音が混ざる。
泣きたいけれど、これ以上泣きたくはない。
そんな、何とも表現し難い複雑な想い。