ストロベリーライン・フォーエヴァー
 まるで大した事ではないように笑いさえ含んだ口調で吉川たちが話しているのを聞いていた美咲は、自分でも気づかないうちに右の拳を固く握りしめて卓をドンと叩いた。麻里がビクッと体を跳ね上げ、怯えた様子で隣の君枝にすがりつく。美咲は卓の表面を見つめながら顔を伏せたまま、知らず知らずのうちに大声で言っていた。
「なんで笑っていられるんだよ?なんでだよ?」
 美咲は顔を上げて明の方を向いた。
「要するにあんた、だまされたんだろ?で、金を巻き上げられたんだろ?」
 詰問口調の美咲の言葉に明はどう答えていいか分からないという様子で黙ったまま唇をキュッと結んだ。美咲は今度は吉川の方を向いて怒鳴るように言った。
「そのお婆さんだって家族に捨てられたんだろ?で先生が面倒を押し付けられたんだろ?違うのかよ?」
 とりなそうとして何か言いかけたフミじいさんの向き直り、美咲はさらに続けた。
「あんただって、だまされた被害者じゃないかよ!先物取引の件、別にあんた一人が悪いわけじゃなかったんだろ?」
 フミじいさんは言葉を引っこめて吉川の方に視線を向け、吉川は片目をつぶって小さな動作で胸の前で両手を合わせてちょこんと頭を下げた。美咲の激昂した声は居間に響き続けた。
「あんたたち、だまされたんだろ?利用されたんだろ?どうして怒らないんだよ!悔しくないのかよ?復讐してやりたいとか思わないのかよ?どうしてそんな、笑っていられるんだよ?なんでだよ!」
 ひとしきり喚き散らして気が抜けたのか、美咲は卓に突っ伏した格好で全身を小刻みに震わせていた。唇からは小さく嗚咽のような声が漏れた。麻里が心配そうな顔で美咲に近づき、そうっと美咲の肩をゆすりながら言った。
「おねえちゃん、泣いてるの?どこか痛いの?」
 数秒居間を沈黙が覆った。遠くから波の音と蝉の鳴き声が聞こえてきた。その沈黙を破ろうとフミじいさんがことさらに大きな音をたてて湯呑のお茶をすすり、そして口を開いた。
「ねえちゃん、あんたがこの町に来たいきさつは俺もうすうす分かっとるよ。都会には都会の苦労があるんだろうな。そうか、あんたも都会で似たような目にあったのか……」
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