ストロベリーライン・フォーエヴァー
 考え込むようにまた一口お茶をすすり、フミじいさんは言葉を続けた。
「東京みたいな都会だったら、あんたの言うとおりかもしれねえが、農業以外になんもねえこんな田舎町じゃ、いちいち気にしてたら生きていけねえんだよ。そんな事もあったなあって、笑っていなけりゃ人生辛すぎるからな。おっと……」
 周りが自分を見る視線に気づいたフミじいさんは、いつものおどけた表情と口調に戻って、ガハハと笑いながらおおげさな動作で頭をかいて見せた。
「ははは、ガラにもねえかっこういい事言っちまったな。さあ、お互いに湿っぽい話はもうなしだ。今日はもうする事はねえから、みんなで浜辺に行って遊ぶべ」
「わーい!麻里、泳ぐ!」
 はしゃいで大声を上げた麻里の言葉をきっかけに、美咲も普段の自分を取り戻した。そして全員で、あの屋根に時計のある小学校の脇を通り抜けて海岸へ向かった。学校の横を歩いていた時、麻里が校舎を見つめながら美咲に言った。
「麻里ね、来年ここに入るんだよ」
「へえ、ピカピカの、一年生になるのかい?」
「うん!楽しみ!トッモダチ百人できるかな」
 麻里は浜辺に着くとすぐにワンピースを脱いで水着になり、一直線に海に走って行った。海水パンツの上に半袖のシャツを羽織った明が念のため一緒に海に入って行った。吉川、美咲、そして君枝は砂浜に座ってそれを眺めていた。美咲には水着がなかったし、あったとしてもさすがに今は海水に入る気にはなれない。
 ひとしきり泳いだ麻里の手を引いて明が美咲たちの方へ砂浜を歩いて来る。すると明がさかんに美咲に目配せしながら人差し指で自分の尻を指して見せていた。ピンと来た美咲は地面に左手をつきそれを軸に素早く体を回転させた。
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