ストロベリーライン・フォーエヴァー
 初老の女性が聞き返す。美咲は右手で頭をもみながら、必死に記憶をまさぐった。
「老人ホームの吉川って女の人。医者じゃないけど、みんなから先生って呼ばれてる人がいるだろ?」
 それを聞いた初老の女性はなぜか一瞬息を呑んだ。そしておそるおそるという口調で美咲に訊いた。
「あんた、ひょっとしてその人と一緒にいたのかね?」
 美咲はパッと明るい表情を浮かべた。どうやら知っているらしい。
「あと、フミじいさんとか呼ばれてる人」
「ああ、隙さえありゃ女の尻触ってくるジジイだろ?」
「そうそう!よかった!やっぱり知り合いなんだね?」
「それで他には誰に会ったね?」
「ええと、小学校の近くのコンビニの……」
「明ちゃんかね?」
「そうそう!あの若い店員。それと、老人ホームの君枝っていうお婆さんだろ。あと麻里ちゃんっていう、来年一年生になる女の子」
 初老の女性は美咲の言葉にいちいち深くうなずきながら聞いていた。美咲が名前を挙げ終わると彼女は突然言い出した。
「会えるかどうかは分からんけど、今からその場所に行ってみるかね?先生、いいかね?」
 美咲を診た医師は一瞬考え込んだが、大きく首を縦に振った。初老の女性は一緒にいた30歳ぐらいの女性に車を玄関に回すように言った。どうやら二人は親子らしい。
 それから20分ほど二人のワンボックスワゴンに乗せられて、美咲は病院からあの小学校のある場所へ向かった。車中で美咲は窓の外の景色を全く見ず、下を向いてなぜ自分を仲間はずれにしたのか、その理由をどうやって問い詰めてやろうか、とそればかり考えていた。
「着きましたよ」
 娘の方にうながされ、美咲は車の外に出た。あの小学校の校舎が見えた。屋根にはあの大きな丸い時計があった。だがその針は3時19分を指していた。変だ。今はどう考えても午前中のはず。
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