ストロベリーライン・フォーエヴァー
 ここは天国なんだろうか?最初に美咲が思ったのはそういう疑問だった。まあ地獄に落ちる可能性がゼロの人間だと自分を思うほど美咲は自信家ではないが、天国にしてはあまりイメージ通りの場所とは言い難かった。
 美咲は夏用の薄い布団をはねのけて上半身を起こした。ライダースーツはいつの間にか脱がされて着物を着せられていた。古臭いが朝顔の模様の浴衣で、遺体に着せる白装束というわけではない。髪はぐっしょり濡れたままで潮臭い匂いがしてべたついた感じだった。どうやら予定通り死ねずにどこかの海岸に打ち上げられてしまったらしい。
 寝かされていたのは八畳の日本間の部屋だった。天井から家庭用の蛍光灯がぶら下がっていてタンスが一つ部屋の隅にあった。部屋の仕切りは襖で、何となくクラシックな造りの田舎風の家らしい。
 自分の今の状況がつかめずにぼんやりとしていると、襖がすっと数センチほど開き、小さな女の子の顔が一部だけ見えた。反射的に見つめ返す美咲の視線に向こうも気づいたようで、ぱっちりした目だけをのぞかせたその女の子はあわてて襖をぱたんと閉め、バタバタと走り去って行く音が響いた。
 それから今度は大人の物らしい足音が、これもバタバタと気ぜわしく響いて来て襖ががらっと大きく開いた。そこには美咲よりほんの少し年上らしい20代後半ぐらいのショートカットの女性がいて、美咲が起き上がっているのを見ると畳の上を這うようにして美咲の傍まで近づいて来た。
「よかった!気がついたんですね。どこか痛い所とか苦しい所とかあります?」
 美咲は無言でゆっくり首を横に振った。その女性は心底ほっとした様子でにっこり笑顔を見せた。
「センセー……」
 そうか細い声が襖の向こうから聞こえて来た。さっきの女の子が襖に体の右半分を隠すようにしてこっちの様子をうかがっていた。
「センセー。おねえちゃん、大丈夫なの?」
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